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シンにはずっと思い続けている年上の女の人がいるんだって聞いていたんだ。
それはきっとシンを狙う女の子だけじゃなくて学年のみんなが知っているだろうことで、噂を通り越した確証のない事実とさえなっていたものだったのに。
その“噂”を覆すような事実を私は……たぶんわたしだけが手にしてしまった。

「好き、名前が」
『ばっ……』
「ば?」
『罰ゲーム?』

あぁ、なんてうっとおしそうな顔をするのだろう。
目の前のこの人がわたしのことを好きなわけがない。あるはずがない。
だってこんなに鈍臭い平凡な女と学年の、いや学校の誰もが知ってるような男が私に思いを抱いてるわけがない。
それはアリが歩いて東京タワーのてっぺんにいくくらいありえないことで、現にこんな状況なのにわたしの頭を回るのは全く別のこと。
いや、こんな状況だからかもしれない。突拍子もなさすぎて脳が真面目に向き合うことを拒否してる。

でもそんなわたしは置いてけぼり。
で、どうなの?とでもいうように臙脂色の猫目がわたしだけを映した。

『なっなんかわたしわりと焦ってるんだけど。すっごく驚いてるし』
「……お前気づいてなかったわけ?」
『気づいてって、わたしシンに何か……というかシンには年上の可愛い人がいるって聞いてたし』
「は?普通に考えてあれは違うだろ」
『いや普通とかわかんないし』
「途中からめんどくさくなって否定しなくなっただけのただのウワサ。で、名前は……その」

ここまできてシンは下を向き目をきょろきょろと動かした。口元に手を当て考え込むように、しどろもどろになる言葉を丁寧に紡いで次の言葉を探している。

「なぁ、本当に全然気づかなかったのかよ?」
『え。う、うん』
「マジかよ……」
『だっだから少し考えさせてほしいかもしれないなぁ、なぁんて』

シンを目の前に少し考えるなんてあとで友達Aに言ったことがばれたら張っ倒されそ……

「あのさ、ごめん。いきなりすぎた」
『へ?』
「順番めちゃくちゃだけど、そういうことだから。今からお前のこと振り向かせる、から」

はひふ……ふ、ふふりむかせる??!!
『あ、じゃあ、よろしくお願いします』
「ふ……なんだよそれ」
『だって』
「宜しくっておかしいだろ」

あぁ、なんて可笑しそうに笑うんだろう。
今まで一度も見たことのなかったシンの顔が珍しくて見ていると、ふっといつもの顔に戻ってそっぽを向かれてしまう。
ねぇ、シンは他にはどんな顔をするの?

溢れ始めた私のシンへの興味を余所に、シンは小さく“よろしく”と呟き目を細めた。


どこに住んでるの?
好きな音楽は、シンってよく聞いてるよね。
ねぇねぇ、シン。
そういえばシンってわたしのどこを好きになったの?



[END]

年上のマイちゃんにもあんなに積極的に、好きは言えないけど恥ずかしがりつつわりとがんばって攻めるかわいいシンがタメの女の子を好きになったら、、、を思って書きましたー!
のはずがやっぱり書いているうちに照れてしまったシン

最後の1番最後のねぇねぇは付き合ってから何年も経った彼女のセリフ。