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「今日は空がいつもより広いみたい」って言ったら、「地球から見える空の面積は変わらないだろう。今日ばっかり空が広がることなんてあるか」と冷たく言い捨てられた。
何か喋らないと耐えられなくて呟いた当たり障りのない一言にそんな風に返されて、悔しくて。独り言を言っただけだと装うように、ずるい私はカミュの返答を無視した。
拾ってもらえただけよかったのかもしれないのに。

カミュっていじわるだよね。でも今日のいじわるは格段に酷かった。

『これ見よがしにさ』
「なんだ」
『肩に手回したりしないでよね。しかもあんな所で』
「一種の束縛表現だろう。それに在らぬ噂を立てられるような抜かりは見せていない……在らぬ、ではないか」

ううん。いや、本当に束縛の意でカミュは彼女の肩を抱いたのかもしれない。慣れた手付きで女性をエスコートするカミュの姿に違和感なんて誰も感じないもの。今、目の前で闊歩する人はもしかしたら違うの人なのかもと思ってしまうくらい。
だからこそ堂々と彼女を、皆の前で手中に収めることができる。
あぁなんて器用でずるい男なんだろう。

『本当に彼女なんだ』
「あぁ、お前の想像通りだ」

だからもうついてくるな、と、言葉の矢に文が乗せられる。
同じ方なんだよ知ってると思うけど、帰り道。いつも置いて行かれないようにカミュの大股を追ってきたじゃない。
だから一歩も動いてはいけないはずの私の足はいつもみたく必死にカミュを追う。

カミュ、怒っているだろうな。
嫌いだろうな、こういうの。

流れるカミュの髪がどんどん遠くなって、ふと私が足を止めているのだと気づいた。

カミュはいじわるでずるくて器用で、それでいて優しいんだから全く敵いやしない。
そういえばちゃんと口にしたことはなかったね。
本当に好きだったんだよ、ねぇカミュ。

触れたら溶けてしまう


[END]