そういえば、久しく君の後ろ姿を見ていない。
「ん、祐希どうかした?」 「べつにー」 「あっそう」
そうだ、何かを忘れていると思ってたんだ。 でも毎日見ていたあの子の背を見なくなったのも当たり前、だって夏休みだから。べつにそれを見ないからってなにか支障をきたすわけではない。真夏の午後の微睡みの中、風と共にふわりと思い出したくらいだった。
夏休み。千鶴や要、春とは当たり前のように会えるのになぜあの子とは会えないんだろう。1度くらいばったり会ってみてもいいはずなのに。 家が遠いんだろうか。それとも長期で田舎に帰っているのかも。彼女はずっと、今この瞬間も、キンキンに冷えたどこかの塾で箱詰めになって勉強をしているのかもしれない。ぽつぽつと浮かんでくる疑問はどれにも答えは出なくて小さく泡のように弾けた。 千鶴なんて示し合わせなくてもばったり会っちゃうんだから、
「ふぅ……(ほんとに不思議だよねぇ)」 「祐希?」
オレはあの子の家さえ知らなければ連絡先も知らない。あるのはお母さんがどこかにしまっている連絡網の電話番号だけ。 家に電話したら誰が出るんだろう。お母さん?弟…お姉さんかも。 記憶の視覚だけでは物足りない。知りたい、知りたい。唐突に溢れ出した知りたいの欲求は止め処無く溢れ出してくる。
彼女はどんな夏休みを過ごしているんだろう?
「ねぇゆーた」 「どうしましたか祐希くん」 「夏って長いね」 「そう?まだ2週間しか経ってないのに」 「あーそうだっけ」 「そうだよ。夏が長いだなんて祐希にしてはめずらしいこともあるんだね」
くすっと笑う悠太はオレのことはなんでもお見通しって顔。いつものことなのに、こんな時までばればれなのがおもしろくなくて、ちょうど回ってきた扇風機のヘッドを抱え込んで独り占めした。
「まぁ、僕は真面目ですから?」 「よく言いますよ、祐希くん」 「むっ……なにさぁ」 「じゃあ秋から祐希もメガネデビューだね」 「えっなにそれ絶対嫌ー」
めいびー・めいびー
「学校、始まればあっという間だよ。僕たち」 「あーあ、貴重な夏の1日がこうして終わっていくー」
(そうだ。夏が終わったら君に夏の思い出を聞こう)
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