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ぼくとしてはなかなか最高のシチュエーションで告白できたつもりだったんだ。ロマンチックな夜景を背景に、グラス片手に乾杯しながらーーなんてことは出来なかったけど、雰囲気の良い住宅地の一本道、洋風の街灯の下、のんびりとベンチに座りながら。言おうと事前に決めてきたわけではなかったけど、自分の全てを彼女に伝えた。
しんとした夜の帳にはぼくと名前ちゃん、世界は自分たちふたりきりなのではと錯覚するくらい静かな夜だった。

え、彼女からの返事?
そんな野暮なこと聞くもんじゃないさ!って別にふられちゃったわけじゃないんだけどね。返ってきたのは “ありがとう” と“ 少し考えさせてください”。

んーまぁそれが当たり前だよね。ただの仕事帰りだったんだもん、名前ちゃんだって驚いちゃうに決まってるよ!ポジティブシンカーのぼくちんだからね。まだまだ可能性を信じてる。でも考えさせてください、ってことはやっぱり脈ナシだったってことだよねぇ……うん、大丈夫、うすうすは感づいてたんだー。
彼女に気持ちを伝えたこと、ぼく自身は後悔してないし彼女の前で凹んでる自分を見せたくなくって、現場で会えば気にせず声をかけに行った。お仕事もいつも以上に張り切った。でもそれは彼女には逆効果だったみたい。
ぼくが名前ちゃんに笑顔を向けるたびに彼女は視線を俯かせ足早にその場から去っていく。そこでようやく気づいたんだけどぼくは彼女のことを少しずつ追い詰めていたのかもしれない。そうなれば自然と膨らむのは後悔ただ一つ。まだ仕事も不安定な彼女に自分のエゴを押し付けるんじゃなかったと思い返してはめげそうになった。

「そんなに思い出してはため息をつくくらいなら、もうわざわざ関わりにいかなければいいのに」

寮の談話室を出る間際、アイアイに言われた言葉は頭をぐるぐる走り回ってるけどそういうわけではないんだよなぁ……。というかそれができないだけかもしんないんだけど。


改めて、スタジオの壁際で手を握り合わせる名前ちゃんを見る。
お節介だって十分分かってるんだけど……放っておけないんだよねぇー。それが性分ってやつ?
意を決して名前ちゃんのいる方向へ足を向けると、ぼくに気づいた名前ちゃんが気まずそうに頭を下げた。

「やーやー名前ちゃん!この現場では会うの始めてだよね。今日のゲストだっけ?んまーぼくちんも久々の再ゲスト、なんだけどねーん」
『あ……はい。そうなんですね、先輩もゲスト……』
「ほーら前向いて!頭の方が重たいんだから、ずっと下向いてると首痛くなっちゃうよ?」
『なっなりませんよ!』

もじもじと居心地が悪そうな名前ちゃんの様子に目を細める。

「ねぇ名前ちゃん、緊張してるデショ」
『へっえっ…しっしてま……』
「んー?」
『……して、ます』
「だーよねー!嶺ちゃんには名前ちゃんのことなんてなんでもお見通しだぞう?そんな名前ちゃんには、はい!嶺ちゃんのおまじないチョコ!」

ハッとした様子で名前ちゃんが顔を上げる。
何とはない、ただの市販のチョコだ。しかもさっき差し入れの缶からかっぱらってきただけの。

『甘いもの、食べれば幸せで…にっこり。口許も緩まってしゃべりやすくなる……』
「覚えててくれたんだね」
『当たり前です!チョコで口許緩まるとか喋りやすくなるとかこんな意味わかんないこと』
「えーでも実際効くでしょ?ねぇ名前ちゃんどうどう?」

顔を真っ赤にさせた名前が唇を噛みしめる。せっかく塗ったグロスが剥げちゃうよ。
なんでそんなに泣きそうな顔するの?


『せん…ぱい。すきです』

一瞬世界から音が消えたようだった。真後ろでOKの声が大きく響き、はっと我に返る。慌てて名前ちゃんの瞳を見つめ返すと、ぶれないブラウンの瞳がしっかりとぼくを見上げていた。

「えと、名前ちゃん。それはこの前のお返事ってことでいいのかな?」
『あっ……あの』

すぐ名前ちゃんの顔に戸惑うような後悔の色が見える。あと5分で名前ちゃんのスタンバイの時間だ。緊張しきった名前ちゃんの手を取ると暖かいスタジオと正反対で冷えきっていた。驚いたように引こうとする名前ちゃんの手を逃さず両手で包み込むと、辺りを見回していた名前ちゃんもようやく大人しく手を委ねる。

『先輩、手あったかいですね』
「んまーねっ、ぼくちんの手は名前ちゃんの手を温めるためにあるようなものだからさっ」

困ったように名前ちゃんが眉を寄せて笑う。こうした手を握りあっていると、むしろぼくの方が手が震えそうだよ。高鳴る心音を意識すると直接名前ちゃんに伝わってしまいそうだったから。ただ必死に名前ちゃんの手を温めることだけに集中した。

『先輩のこと、ずっと好きだったんです。ここで……同じようにチョコ、もらってから』
「うん……」
『もちろんそれより前から先輩のこと知ってて。テレビではいつ見ても輝いてる、こっちまで明るくしてくれる』
「いやーそんなことないったらー」
『画面を通さなくてもせっ先輩は先輩で、慣れない現場が先輩のおかげで賑やかになるとどんなにほっとしたか……現場に先輩がいるの、いつも楽しみにしてました』
「いっ……いや、それ、褒めすぎじゃない名前ちゃん?」

恥ずかしそうに、でも笑顔でさらっと言ってのけるところはさすが、というか。本当に彼女には翻弄されっぱなしだ。参っちゃうよな、もう。

『だから……すごく嬉しかったんです。本当に。だからこそ信じられなかったし、キラキラアイドルの先輩と私が並んでるところなんて想像できなくて』
「本番入りまーす。名前ちゃん準備よろしくー!」

温まりきった名前ちゃんの手がぱっと引き抜かれる。

『ずっと言わなきゃって……だから。先輩、大好きです』

こんなときでも失礼します、ありがとうございます、とぺこりと頭を下げていく彼女。驚かされることがいっぱいで全然ついていけない。でも確かにさっきよりも冷めた自分の指先はここにあったし、滑らかな手の感触もしっかりと残っている。幻想なんかじゃない。紛れもなく彼女がここにいたんだ。
始終開きっぱなしだった口を閉じて確かな証拠を逃さないようにきゅっと両手を握りしめる。


「やったぁぁあああ!」
「えっ、嶺ちゃんどうかした!?」

すれ違いざまのスタッフが驚いて肩を揺らす。せっかく緊張の解けた名前ちゃんがスタジオのスポットの下で目を丸くしているのが見えた。
あぁ、ぼくったらだめだめだな。また名前ちゃんに迷惑かけてる。それでも膨らんで弾けた気持ちは抑えられない。
ぼくは突き上げた拳をもう一度、大きく開いて天井の照明にかざした。


君が大好きCO


[END]

CO…カミングアウト