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- ナノ -

「お嬢ーさん、こんなところで眠ってるなんて。そろそろ自分の女性らしさを気遣ってあげてくださいね」
『……あぁ、ミツヒデ』

艶やかな瞳が指の合間から俺を捉える。ミツヒデならいいや、とごろんとハンモックの上で寝返りを打つ少女…いや1人の女性。
ハンモックを気に入り駄々っ子のようにここから離れたがらなかった名前。思わず触れたくなるような髪も仄かに色づく頬も出会った時と全く変わらなく、名前らしい。

「春先とはいえこんなところで寝てたら風邪ひきますよ。ってあーもう、ほら、ドレスも下に擦りそうだし」
『イザナに私の様子見とけって命令された?』
「俺はゼンに仕えてるんだぜ」
『あぁ、そうよね』
「それに……俺が一度だって命令でここにきたことはあったか?」

彼女は無口で自分のことを伝えるのが苦手だった。
俺がいてもお構いなしに寝入ろうとするところなどは小国なれど一国の姫らしい。イザナ様の求める女性の寝顔をこっそり拝見しているなんてことあまり知られたくない。ゼンに余計な苦労をかけさせたくないと頭では分かっているものの、姿を知り放っておくよりはと理由をつけては俺は彼女の側にいたがった。

『ねぇミツヒデ』
「うおっ、寝てたんじゃないんすか」
『……イザナに口付けされたの』
「はぁっ!?……いやまぁ、イザナ様は名前のことを慕っているんだし。むしろこの3年以上何もなかったことの方が……」
『イザナって私のこと好きってわけじゃないのよ』
「いやそんなことは……」

イザナ様が名前の国のある土地を押さえたい、という噂が流れたことがある。リド領、スイ領の件、イザナ様が自分の政治的思惑のために確実に事を運ぶことは名前を含め周知の事実だ。でもあの方なら打算的な方法をとる、政略結婚などは進んで望まないだろう。
ということは国同士の交わりを通じて少なからず恋慕の情がお生まれになったのではないか?

「そこまで待っていたんだ、名前に本当に振り向いてほしいのかもしれないぜ?」
『そうだと、いいのかもしれない。それなら私の存在はまだ報われているわよね』

報われていると思うならどうして無表情なんだ。名前はなぜここまで自分にあきらめきっているんだ。
やり切らない思いで奥歯に力がこもる。小国の姫はそんなに報われてはいけない存在なのか。貴女みたいな人が自分を大事にしないなんて俺が許さないと、そう叫んでやれたらいいのに。

「ミツヒデ?」

目元を覆っていた手を手に取りそっと唇を近づける。名前は一瞬目を見開いたが、俺はそのまま拒否されることなく素直に受け入れられた。
ほんの数秒、触れるか触れぬかだけと、そう決まていたはずが一度触れるとなかなかに離せない。むしろ1秒でも長く、想いを乗せるように。その間も名前は動じることがなった。
これが彼女なのだ。

せめてもの償いとハンカチで彼女の口元を拭うが、その時も名前の瞳には動揺の色一つ見せない。
落ち着いた声が凛として空間に響く。

『一国の姫君に、しかもあなたの国の王の建前上の想い人に口付けなんて。衝動だとしたってあなたらしくないわ。気でも触れたの?』
「俺は……俺のことはいいんだ。それより貴女こそ、その殿下の臣下を拒否しなくてよかったんですか」

結局、彼女にとってはイザナ様の口付けも俺の口付けも無機物が無機物に触れたようなものだったのだ。そう、彼女の言うとおり俺のソレはあまりにも衝動的であまりにも短絡的だった。
悔しさが増す、やりきれなさが増す。
でも、彼女のその自暴自棄な性質は俺みたいなのが簡単に非難していいようなものじゃなかった。それは彼女の貫いてきたプライド、思い、彼女の全てだったから。

「(でもまさか殿下の時もこんな反応じゃないだろうな……殿下もお可哀想に)」
『拒否できなかったの。イザナの時もあなたの時も、どうすればいいかわからなくて……体が動かなかった』
「そっか……悪かったよ」

手元をぎゅっと握る名前の肩が小さく揺れた。
伸ばしかけていた手が行き場を失う。もしかしたら名前のプライドじゃなくもっと根本的な部分を俺は傷つけてしまったのかもしれない。

『でも、ミツヒデの唇はあたたかいね』
「ん……んん゙っ」
『なんか私、おかしいみたいだよ』


雪煙に足跡を追う
(貴女はそうして頬をいっそう染めて笑った)


[END]

自分と他人を理解しようとしない女の子×恋心をひとり胸に留めていたミツヒデ。