×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

無言の帰り道。外の肌寒さに比べて今はまだ上気した頬の熱で温かい。薄紅色のドレスは数時間前ここにきた時と変わらずしゃんとしたまま。同じようにカジュアルなパーティースーツを着た蘭丸は会場を出て早々に胸元のボタンを外し、ネクタイを緩め、黙って私の隣についてきていた。

失敗だった。
パーティーに誘われて喜んで参加した自分がバカみたい。思い出すと浮かれていた自分が恥ずかしくてたまらなくなる。
結局みんな私の隣にいる蘭丸がメインだったのだ。
軽く息を吐きたくてもこのしんとした夜の空気がそれを目立たせてしまうのではと思うとそれもできない。出しかけた息を飲み込み、黙って街灯に照らされた道を歩む。
先にそれを遮ったのは蘭丸だった。

「はあ゙〜〜」

声を交えて大袈裟にため息をついた蘭丸は、くるっと向き直り乱雑に私の頭を撫でる。

「疲れたな。今日はもう早く帰って寝ようぜ」
『あ……あのね、蘭丸』
「ん?」
『みっみんな普段はとってもいい子達なの!ただ今日は…あの、蘭丸が来たから喜びすぎちゃったんだと思う。私が蘭の隣にいるっていうのも……ほら、みんなが受け入れにくいのって分かるし』

よかったら蘭丸くんもご一緒に、なんて言葉に乗らなければよかった。乗らなければそこで今よりも居心地の悪さを感じただろうけど無関係の蘭丸を巻き込むより全然まし。2ヶ月前の交際発表に浮かれていたんだろうな。何のための“恋愛禁止令”だったんだろう。散々苦労させられたそれに守られていたって今になって気づくなんて。

『あの、さ、蘭丸。ごめ「謝んな」
『……っ』
「確かに今日は……まぁ楽しいパーティーとは言えなかったがおれとしてはついていけてよかった。そもそもどんな野郎がいるかも分からねぇ所にお前1人でなんて行かせらんねぇ。それに比べりゃ…」

赤とグレーのオッドアイが有無を言わさない。でも蘭丸、女の子苦手じゃない。私がいる手前、今日は下手に追い払うこともできなくて。
蘭丸だって私への優しさだけでそう口にしているわけじゃないことは分かってる。

「納得がいかねぇって顔してんな」
『……いかないもん』
「おれは今夜、ちっと洒落た格好をして、名前と2人で出席できたってこと自体が幸せだった。名前はどうだ?」

嬉しくなかったか。いつものように2人で出掛けるだけなのに、ただ着飾っただけで不思議と心が高鳴らなかったか?
もう隠す必要がない。堂々と2人でこの道を歩けるんだって。
行く前までの自分を思い出したら思わず涙が溢れてきそうだった。

「おまっ…まさか…」
『泣かないよ。蘭が嫌なの知ってる』
「おう……そうか。けど勘違いすんじゃねぇ。おれの前でならお前が泣くくらいなんともねぇ、そこまで酷薄じゃねぇよ」

慰めるように、今度はぽんぽんと軽く頭を叩かれそのまま後ろから抱きすくめられる。
そりゃみんなもなんで私なんかがって思うに決まってるよ。アイドルっていったって他の同期に比べたら全然自信がない。マスターコースの時だってみんなに比べてかなりの遅れをとってようやくデビューしたくらいだもん。そんな女が蘭丸の隣にいたら誰だって良い気なんてするわけない。それでも……だからこそ私は。
抱かれた左腕に両手を添え、頭を胸元に預ける。

「あ、あと上手い飯も食えたな」
『蘭、今日何が一番美味しかった?』
「そうだな…肉、肉がうめェ。あとスープがなかなかだった。あれだったら名前も作れるんじゃねぇか?」
『さすがに作れないよ。でも蘭がそうやって嬉しそうな顔見せてくれるだけで私嬉しい、元気出る』
「そうか、ならおれも」

あーんと口を開けた蘭丸が迫ってきて唇を覆うように甘噛みされる。いくら世間に発表したとはいえこんなところを撮られてしまうのはごめんだ。私が少しでも引くことを許さない蘭丸が頭と腰に手が回すため周りが全く見えない。まるで真意を読み取って俺だけを見ろと言われているようだった。
直前までとは打って変わりそっと唇を放された後、挑発的だった目線はまるで別人。目尻は優しく垂れ下がり、思わず手を伸ばし触れたくなる。

「ンだよ、つーか手冷てぇぞ」
『やわらかそうだなって思って』
「やわらか……っほっぺじゃねぇんだから!いや、ほっぺでも肉がついてたら困るな……。それより、やっと笑顔見れたな」

蘭丸にも笑顔が宿る。お互いがお互いの笑顔を作って自分の笑顔を作る。一番見たかった名前の表情、俺も見れた。なんて細く開いた口から白い歯を見え隠れさせる。

そのまま無言で額に軽くキスを落とし、黙って手を引かれた。
造作は何の変哲もない、蘭丸そのものなのになぜかその背中はマントを翻した王子様の様。その温かい手だけを頼りに私はまた一歩、ヒールを鳴らした。


[END]

本当はシンデレラを連想させようとしてタイトルも「舞台裏のエラ(=シンデレラ)」にしようとしていました。
最後も道が月と電灯の明かりで照らされてる〜とか、そんな表現を入れたかったのですが……明かりなんて表現入れたら内容とは違えども月明かりのDEARESTを連想させてしまう!これはいかん!
シンデレラは藍ちゃんカミュの専売特許と思い自重しました。

じじょう=事情/二乗