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「ボクは君のことが好きだから、信じてるんだよ。これでも」

藍がそっと目を伏せた。
しなやかに伸びる睫毛は透き通っているようで、傷ひとつない頬は触ればやわらかく崩れてしまうのではないかと思うほど白く、ひどく脆そう。こんな時まで彼に見とれてしまう私はきっとおかしい。しかし皮肉なことに作られた美しさだけのことはあるのだ。彼は藍のこの悩める表情を見てなんと思うだろう。

『信じてもらえない、かな』

当たり前でしょ、大袈裟な溜息をつきながらの飽きれたような返事はもちろん返ってこない。それどころか普段なら一瞬だって隙を見せない藍が私に答えを求めてる。私が彼の余裕を奪ったんだ。

信じてもいいの?

伸ばしかけた手に確かな感触が得られなくて動揺している。思い切り髪をかき乱したくなる衝動を抑えるように両手を前に組んでいる藍。

「好きの感情は分かったつもりでいたんだ。大好きな人、たった一人の人に対してだけ生まれる特別な感情」
『そうだね、それが恋だもん』
「こんなに辛いだなんて知らなかった」

辛いのもまた恋なんだよ、なんて今の彼にはきっと整理しきれない。嬉しいことだらけじゃないんだよ、幸せだらけじゃないんだよ。
冷静な彼が焦っている。もしかしたら壊れちゃうかもしれない…それこそ物理的に。
落ち着けば分かるはずなのに。ほら藍の得意な可能性を率に表せば明らかでしょ?たとえそのパーセンテージが低くたって私には藍しかいないって、どうしたらわかってくれるのかな。

「都合のいい記憶も悪いものも全部忘れられないんだ。ボクは機械だから」

今の藍に言葉は伝わらない。
怖がらないで前を見て。初めてに戸惑ってもいいから、今みたいに打ち明けてくれれば私はここにいるから。私のことで生まれる君の疑心は私が必ず打ち砕いてみせるから。口から出かけた言葉はすべて飲み込んだ。かわりに手を握って中指の関節にそっと口付ける。
それなら見た記憶の何倍もの藍との記憶を作ってみせよう。さらさらと藍の体から流れていく砂の粒だって逃しはしない。
私の意図を知ってか知らずか、固く抱き締めた後の藍には安堵の様子が戻っていた。


私は貴方の起爆剤


[END]