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いずみくんの目からはなにも読み取れない。
ただその視線の先に同僚のめろこがいるのは知っていた。そして私とはタクトを追いかけるめろこへの当てつけで付き合っていることも。いずみくんは気づいていないんだ。自分が本当に心から思い続けているのはめろこだっていうこと。私のことを心から愛してるなんてセリフは蓋を開ければ薄っぺら、ただの自己暗示に過ぎない。
でもその、いずみくんの心の箱を開ける鍵はどこにあるのか分からない。いずみくん自身が持っているのかもしれないし、めろこが持っているのかもしれない。私が握りしめて隠しているのかもしれないしタクトの胸ポケットにぽん、と入っているのかも。それとも――もしかしたら一生見つからないのかもしれない。

いずみくんは絶対に私と手を繋がない。
手を伸ばせば頬にも髪にも触れさせてくれるしキスだってするけど、手だけは繋いだことがない。

「繋がれていた手を放すのが嫌なんだよね」
『なんで?』
「嫌な思い出があるから」

“嫌な思い出”を口にしてもいずみくんは表情一つ変えなかった。表情は変えなかったけれど、今いずみくんの頭の中には辛かった日々の、もしかしたら1番辛かった日の映像が流れているんだ。いずみくんは生まれ変わったその時から生きていた頃の記憶があるんだって。そんなこと私達死神の間じゃあ聞いたことのない例だったし基本的に生前の記憶の話はタブーだったから、一度それを聞いて以来話したことはない。
でもこうしてたまに、私は彼を感じる。こんな時、手を広げて華奢だけど自分より大きな体に腕を回すといずみくんは子供の様に頭を胸に押し付けて艶っぽい声で私を呼ぶ。もう動いていない心臓から心を落ち着かせるような音は出ていないのに。


「でね、タクトったら新しいアクセに気付いてくれないの!せっかくこの前一生懸命タクトのために選んだのに。でもそんな鈍感なところがタクトらしくて可愛いんだけどね」
『最後、のろけになってるけど。相変わらずタクトと仲良いんだから羨ましいなぁ』
「のっのろけてないもん!私タクトに怒ってるんだよ、それにこの前の告白も失敗しちゃったし……絶対に振り向かせて見せるんだから!」

めろこは大好き、特に恋に一生懸命なめろこが好き。お腹を出したコスチューム、ウエストはいつもきゅっと引き締まっていて誰もが憧れちゃう。腰まで伸ばしたピンク色の髪が跳ねているのは見たことがない。
幸せになってほしいって心から思ってる。その気持ちに嘘偽りはないけれどめろこのことを思っているのはほんの何割程度。

「がきんちょタクトにはこのネックレスの良さが分からなかったのかな」

そう言って胸元についた鍵モチーフの飾りのついたペンダントネックレスを見て私は無意識にそれに手を伸ばしていた。


「僕の愛に気付かないの?」
『気づいてるよ、ちゃんと』

小さく息をついて私は困ったように眉を下げてみせる。上から見下ろすいずみくんが同じようにして微笑み返す。

「名前がネックレスしてるなんてめずらしいね。何これ…鳥?」
『そう、幸せの青い鳥』
「どうせなら犬にしてよ」
『自分が犬になるのは嫌なくせに』

可能性なら私たちが可能性を失った場所に捨ててきた。私自身も見つけられないように空から放り投げた。だからお願い、箱の存在にはまだ気づかないで。もう少しでいいからこのまま変わらないでいて。
小さな金属の鳥にいずみくんの唇が近づく。


[END]

ちょっぴり不完全燃焼。ずっと書きたかったので上手くいかず、うんうん唸っています(笑)
この話の前提として、夢ですので原作と違うのはいずみくんがヒロインちゃんの事を心から愛しているということ。これはまだまだ満月に会う前のお話です。

ちょこっと解説。可能性を失った場所は人間世界、捨ててきた鍵を拾ったのは満月ということに私の頭の中ではなっています…がまぁこれはあまり関係なかったり。前述通り、本当は両想いのお2人。ヒロインもそれに早く気付いてくれますように、という気持ちで泉くんとの恋の途中経過を書きたかったのですが、ヒロイン視点にしたらただの深読みしすぎのちょっと鬱ヒロインの面倒くさいお話になってしまいました……うう。
ここまで読んでくださってありがとうございました!