×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「どっ…どうでしょうか」

うーん、だなんて考え込むような仕草をするものだからなにか配分を間違えてしまったのではないかとはらはらした。一応味見はしたんだけどな。刺激的なものを好む神宮寺さんには少し味が薄かったのかもしれない。
きっと情けなく眉を下げていたのだろう。おでこをつんと突かれお上手なウインクをひとつ、それから一言。

「うん、おいしいよ」
「ほっ本当ですか?」
「もちろんだよ、それともハニーにはオレが嘘をつくような男にでも見えたかい?」
「いえそういうわけではなく……神宮寺さん優しいから気を使っておいしいって言ってくださいそうなので…」
「うーん、まぁそれは否定しないね」
「ああっ酷いです!やっぱり……」
「うそうそ。本当においしいよ、春歌」

ひとつひとつの仕草に見惚れる。
お箸を持つ手、指。お気に入りなのかいつも同じブレスレットをつけている腕、髪をかき上げる仕草も素敵。その時に見える耳や顎のライン、首元。男の人なのにこんなに色気がむんむんだと隣にいる私の肩身が狭くなってしまいます。
口許へ運ばれる卵焼き……そのまま厚みのある唇に目がいく。
あぁだめです!どうして私はこうえっちなことを考えてしまうのでしょう。かっと熱くなった顔を両手で包み込むけれどなかなかその熱は収まらない。

「うん、この卵焼きもなかなかだ。君も一口……」
「……」
「……」
「…っはむ……、びっびっくり…えっとこれは…卵焼き?」
「正解。それにしてもオレと二人の時に考え事なんてよくないな」

まさか何を考えていたかなんて言えるわけがない。しゅんとなって目を伏せると今度はポテトサラダを口に入れられた。
膝の上に広げられたお弁当箱、中身はもうすっからかんだ。

「慌てて食べてしまうくらいおいしかったよ、ありがとう。飲み物を買ってこようと思うんだけどハニーは何がいい?」
「あっそれなら私水筒を持ってきています!」
「気が利くね」

“さすがオレの彼女だ。”

そんな風に言われると胸がほっこりする。もともと私なんかが届かないような方だったから。そういうと神宮寺さんは絶対に怒るけれど今だってこうして二人でお昼を一緒に出来ることが信じられないんです。

立ち上がっていた神宮寺さんはさっきよりも寄ってベンチに腰かける。肩が触れ合ってます…!そんなことを考えているうちに顔が近づき、ぺろっと舌を出すと私の口の端を舐めあげた。

「なななっ…今…」
「悪いね、さっき上手く食べさせてあげられなかったようで口の端にポテトサラダがついたままだったんだ」

自分の同じ場所を指差しにこっと笑う。なんだそんなことなら言ってくださればいいのに…。それにしてもどきどきした。
このままではまともに顔を合わせることが出来ずお話が途切れてしまうかもしれないと急いで口を開く。

「もし神宮寺さんが気に入ってくだされば…その毎日作ってくるので」
「毎日……か。うん、その必要はないよ」
「あ……」

てっきり喜んで毎日作ってほしいと言われると思っただなんて。自分でも気づかないうちにトクベツに慣れすぎてしまったようです。

「ん、どうかしたかい?」
「え…っと、そうですよね!ここの食堂おいしいですし神宮寺さんにはやっぱり神宮寺さんに合ったものじゃないと。ジョージさんもいらっしゃいますしね」
「ジョージ?なんで今ジョージが出てくるんだい……」

だってジョージさんなら私の知らないような高価な味も、神宮寺さんの好きな味も嫌いなものも分かっているから…私なんかが朝の数時間で作ったものなんて敵うわけがない。

「――いずれは毎日作ってもらえるから」
「えっ……」
「別に君の料理が食べたくないわけじゃない。君は今、朝から夜遅くまで曲を作っていて休む間もない。そうだろう?」
「あ……はい…」
「朝早く俺のお弁当のために起きて君が体調を崩したら元も子もない。だからデビューして一人前にアイドルになって……」

続きを言いかけたまま黙りこんでしまう神宮寺さん。
その続きはもしかして…ただの想像なのにそれより期待が上回って心臓が激しく鳴り出す。

「ふっ…だめだな。こんなに大切なこと面と向かってちゃんと言えないなんて男らしくない」
「あの、神宮寺さ……」
「オレのために、オレたちのために将来食事を作ってくれないか?」
「もちろん、です。もちろん……っいくらでも、毎日!そう毎日作ります!」
「毎日ハニーのご飯もいいけど、たまには俺にも作らせて」

どうにかその気持ちに答えたいと思ったら張り切って返事をしすぎて神宮寺さんに笑われてしまった。

「じゃ、約束だ」

心と心の約束、差し出された小指に自分の小指を絡めると神宮寺さんは楽しそうに“指きりげんまん”の歌をうたった。

「約束、です。絶対……絶対に作りますから!」
「ふふ、そうだね、そうしてくれないとオレも困るよ。約束だってしたし」
「あっ…」
「なにより君の料理の味が忘れられそうにないんだから」


小さな恋人
(でも神宮寺さんの好みが知りたいのでたまにまた作ってきてもいいですか?)
(もちろん、大歓迎さ)


[END]