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『ねぇねぇ、メア』
「……なんだよ」
『私さ』
「お前のことなんて、興味ない」
『メア、もしかしたらびっくりしちゃうかもしれないんだけど』
「いっ言うなら……早く言えよ」
『うーん、そう言われると心の準備が』
「じっ準備する程大した話じゃ……ないだろ」
『クロムと、キスしちゃった』
「えっ……」

ぱっちりと、それはそれは澄んだ瞳でオレの顔を覗き込む名前。普段ならば目を合わせようと迫ってこられることを鬱陶しく感じるのに、思わず扉の陰からその瞳を見返した。

「……マジかよ」

情けないことに、このとんでもないニュースを聞き出てきた言葉はこの四文字だけだった。


宰相と名前の間に恋愛関係はない。ないはずだ。
とりあえず名前を中に入れなきゃいけない気がして思わず扉を開けたものの、この部屋には急に来た客人をもてなすための物は存在しない。名前には適当な椅子を部屋の隅から持ってこさせ、オレはキュアランのクッキー缶の中からとっておきのクッキーを数枚取り出し形だけでもと思い、机の真ん中に置いた。本当は誰にも分けるつもりはなかったが、この際仕方がない。まぁ目当ては缶の方だったしな。
やけに深刻そうな声色で話しかけてきたものだから、てっきりショックの1つや2つくらい受けているのかと思っていたが、そうでもないらしい。名前はそわそわと足を揺らし、もう物珍しくもないであろう部屋をきょろきょろと見渡す。
なんというか、忙しない。
コイツもしかして満更でもないな?あの宰相相手に正気か?露骨に引いた顔を名前に向けるも、オレの視線に気づくとへらへらと笑い返され、なんというか……ムカつく。

「お前……仮にも兄上のために選ばれた女だろう。本来なら城に、女は入れないのに……そんなんでいいのかよ」
『私がここに来たのはリュゼ、それからメアにとって良い異性の友達になるためだもの。婚約者じゃあるまいし問題はないはずだけど』

いや、大アリだろ。兄上やオレの友達にって選ばれて城に来た女が兄上やセレンファーレンの内情に最も近い宰相とデキてるなんて噂が立つなんてとんでもない。こいつマジで馬鹿なのか?
いや、それ以前に宰相は一体を何やっているんだ。女っ気がないこの城に耐えきれなくなって手を出したなんて……いや、あの宰相に限ってそれは考えにくい。もっともセレンファーレンの皇族でない宰相が外の世界のどこの誰と関係を持ったところで問題はないわけだが、アイツならもっと上手くやれるだろう。少なくともオレが宰相の立場ならこんなにべらべらと人に喋るようなやつをキスの相手には選ばない。
いや、仮にこいつが本当に宰相に惚れてしまったら……

「あぁ……なるほどな」
『ん、なに?』

きっとこいつは宰相にいいように"使われて"いるのだろう。

オレたちの血を、国を狙う企みを持たない名前は、オレと兄上の異性の友人になるにはぴったりの存在だったという。昨年家族を失い広い家に彼女は1人。元来純粋素直な性格、親族のしがらみもなく何人からも下手な入れ知恵をされない名前という不思議な少女。彼女をこの役割に選び城に招く際、それは厳格な身辺調査が行われたはずだ。とはいえこちらが調べられるのはせいぜい彼女を取り巻く環境や関係、行動から推察される性格、いわば彼女の過去である。
いくらぼんやりとした女とはいえ今現在からオレや兄上と本当に恋に落ちてしまう可能がないわけではない。城内にいるかもしらない、企みを持った男の意中に堕ちてしまうかもしれない。
それならば宰相にとって、セレンファーレンにとって宰相に惚れさせることが1番なのだ。

目の前にいる女を心底哀れんだ。何も知らない彼女はこのまま宰相へ叶うはずのない片思いを始めてしまうのだろうか?
きっと名前は宰相からのニセモノの愛を疑うことなく受け止め、追い続け追い続け、やがて悲しむのだろう。お前ってカワイソウだ。

『ねぇねぇメア、メアはどう思う?オシゴト上とはいえ日頃からのお話相手のよしみとして相談に乗ってよ』
「それは……」
『ん、なに?』
「……んでもない」

名前を救ってやるほどオレは優しくなんてない。オレの世界に名前は存在していないし、これからも存在させるつもりなんてない。キュアランがいれば十分だから。


でも1人は寂しいよな。
優しくされたら信じてしまいそうになるよな。
この先名前がもし辛く感じることがあるのならば、名前の話を聞くくらいはオレにも出来るのかもしれない。


[END]
カワイソウなんて他人から思われたくない