松夢 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

ぴっかーぶー!


最近彼女ができた。オレが落とした財布を彼女が拾ってくれたという、ドラマか漫画みたいな出会いがきっかけだ。付き合ってからは、まだ1ヶ月しか経っていない。相手の予定がない日に近場でお茶をし、お散歩をするだけだが、オレは今とても幸せだ。
そんな彼女の存在が、ようやくブラザーたちにばれたらしい。

「そういえば平日の真昼間にカラ松兄さんが女の子と歩いてるの見たんだよな」
「えっまじでー!」

漫画を読むおそ松兄さん、求人雑誌を捲るチョロ松、猫と戯れる一松に十四松の遊びに付き合うトド松、そしてミラー片手の、オレ。そんないつも通りの六つ子部屋にチョロ松が爆弾を放り込む。兄弟たちの目は直ぐにチョロ松に向き、そして……何故か皆ーー十四松以外ーー視線を元に戻した。

「なに、真昼間からってもしかしてニート彼女?」
「違う、彼女は大学生だから時間の融通が利くんだ」
「えっ、大学生って暇なのか」
「おそ松兄さんそんなことも知らないの?大学生って、自分のやりたい勉強を好きな時間に取って、それさえもサボり無限にある時間をウェイウェイしてる奴らだよ?」
「トド松さっすが、やっぱこの手のことに関しては物知りだな〜。そんなことなら俺も大学通えばよかった」
「無限にある時間をだらだら過ごしてるのはおれ達だろ!つーかおそ松兄さんが大学行こうものなら即留年だよ!」

一松や十四松はどうか分からないが、今話を盛り上げてる3人は正直大学にいても馴染めそうだ。
そう、実はオレは大学に2度も入ったことがある。1度目は彼女を迎えに行くために、オレは校舎の前で待っていた。大きな校舎から同年代の人達が溢れだしてくるのは、とても不思議な光景だった。皆が自由な格好をし、個性を持ちながらも楽しそうに語らっている様子は見ていて少し羨ましくもあった。
2度目はなんと、彼女の取っているクラスに潜り込み、一緒に授業を受けた。大学っていうのは、さっきトド松が言ったように授業をサボっても怒られないらしいし、逆に部外者がこっそり授業を聞きに行っても特に気づかれないものらしい。彼女は、彼氏と一緒に授業を受けるのが憧れだったという。授業の内容は何もわからなかった上、興味も持てなかったが、彼女が喜んでくれていると思うと幸せな気分だった。
大学に入学することはできなくても、実は大学に入れることをおそ松兄さんに教えてあげたら喜んで遊びに行きそうだ。色んな人がいたから一松にも友達が出来るかもしれないし、女友達に大学生のふりをしているトド松にもいい社会勉強になるだろう。

「実はオレはこの間、大学に行ったんだけど……」
「っていうかチョロ松兄さん、情報遅すぎだよねー。ボクなんてもう何度も見かけてるよ、カラ松兄さんと彼女が一緒に歩いてるとこ」
「えーまじでー!」
「まじのまじだよ、十四松兄さん。だからそんなに驚くことじゃないの」
「なーんだ、そっかぁ」

なんだ、そうなのか。
どおりでブラザー達の反応が薄いわけである。十四松が女の子とデートをしていた時のように興味を示さないし、後をつけられた覚えもない。トド松がスタバァバイトで女の子と仲良くしていた時のようなねちっこさもない。
それはみんなオレに彼女が出来ていたと知っていたからだったのだ。

「それならば話は早い。みんなオレの彼女に……」
「ていうかおそ松兄さん、ボクのプリン食べたでしょ」
「え〜俺食べてないよ」
「おれ食べた」
「一松兄さん!!」
「オレの彼女のこと気にならないか、みんな。可愛いんだぜぇ」
「気になる気になるー!」
「おっ十四松。仕方ないな、話そう。まずオレと彼女は……」
「ニート達、夕飯ができたからいらっしゃい」
「あっおい、オレの話は」

タイミングが悪すぎるぜ、マミー。
ドタバタと部屋から駆け出していく兄弟達を見てため息をつく。今日の夕飯はハンバーグだろうか。デミグラスソースのいい匂いが部屋まで漂ってきた。空っぽになった部屋の中でただ1人、十四松だけがオレの話を聞くべく、目をきらきらさせて座っていた。

「十四松、明日おれの彼女に会ってくれないか」
「らじゃーーっす!」


****

「はじめまして!松野十四松です!」
『はじめまして、十四松くん。私は』
「彼女は、名字名前さんだ」
「へぇー名前ちゃん!よろしくー!」
「あ……名前」

オレの弟に会うということで、些か緊張していた彼女だったが、初対面からオープンな十四松を見てほっとした顔を見せた。2人きりでいる時以上に緊張しているオレを他所に、気づけば十四松と彼女は上手く打ち解けていた。さすが十四松だ。
彼女は彼女で、人と打ち解けるのが早い方だと思う。思えば、大学でも沢山の友達とすれ違いその度二言三言交わし次回遊ぶ約束をしていたのを見た。

『カラ松くん、こんな兄弟があと4人もいるんでしょ?楽しそうだなぁ』
「君は今、一人暮らしだしな」
『うん、そうなの。だから家に帰ってもしーんとしてて、寂しいんだよね』
「じゃあ、うちに来るといいよ!うち楽しいよ!みんなでトランプしたり将棋も野球盤もあるし!」
『あ、いいねトランプ。沢山人がいるからいろんなゲームが出来そう』

彼女の部屋は一度だけ見たことがある。それはつい先週のこと。彼女はこじんまりとした古い貸しアパートに住んでいた。親元を離れ、自炊しながら生活する彼女はおれとまるで正反対だ。
見送りだけで中に入らなかったけれど、ちらっと覗いた部屋は優しい色で溢れていて彼女らしさが部屋にも表れていた。しかし、そんな部屋でも彼女は家に帰れば1人きりなのだ。

十四松が次から次へと繰り出すギャグに、彼女はひとつひとつ楽しそうに反応する。途切れることなく会話を続ける2人はいつまで経っても見飽きない。


「あっやっべー。そろそろぼく行かなきゃ。野球の約束あるから」
『十四松くん野球やってるんだ』

少し語尾を上げ、彼女がオレに問う。正直、十四松がいつもどこで誰と野球をしているのかまでは知らなかったから、オレは曖昧に頷いた。

『ごめんね。なんか話が盛り上がっちゃって、カラ松くん楽しかった?』
「いやオレは……十四松と仲良くなってくれただけでよかったと思ってる、本当に」
『そう』
「そうだよ、ぼく名前ちゃんと仲良くなれてうれしい」

“本当に?”と彼女が冗談めかして言うと、十四松はムキになってそれに返す。もうすっかり、十分すぎるくらい2人は仲が良い。

一足先に店を出るという十四松を見送り、彼女の前に座り直す。先程の盛り上がりとは打って変わって“静か”、だった。しかしその上では熱っぽい視線が交わされる。初めこそ気まずく感じていたこの空白の時間に何かの存在を感じ始めたのは、付き合って2週間経った頃だった思う。
水滴に覆われていたグラスはどれももう空っぽだ。

「あの……今日、このままウチに来ないか」
『えっ今日、カラ松くんの家に?』
「あぁ。実は今日、みんなウチにい……」
『でっでも!そんな急すぎるし私、あの……』
「今日、十四松以外たぶんみんないるんだ!」
『あ、みんな、そうだよね。そっか』

まぁ滅多なことがない限り、あいつらはいつでもいるんだけどな。了承の印か、彼女もにっこりと笑いオレの誘いに興味を示す。

「兄弟に紹介したいんだ。君がすごく素敵で魅力的だから。兄弟に知ってもらいたいと思うし、仲良くしてほしいとも思う」
『恋人の家族に会うってすごく緊張することなんだよ?』
「負担になるなら……」
『いいの。負担じゃない、違うの』

オレの大事な人たちなんだ、そう言うと彼女は“知ってる”と照れくさそうに笑った。


『どうしよう。カラ松くんのことなんて呼んでるんですかー?なんて聞かれちゃったら、もっとあだ名っぽい方がウケるかな?』
「いや、ウケとか考えなくて大丈夫だと思う」
『えぇ、そうかなぁ』

『それより私のこと。いつになったら、ちゃんと私の名前呼んでくれるの?』
「べべべつに君の名前なんていつでも呼んでるだろ」
『じゃあ今呼んで』
「……名前」
『なぁに、カッちゃん?』
「カッ……っなにて?!?!」


[END]
[ 15/15 ]

[prev] [next]
back