松夢 | ナノ
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まるで子供だね


帰り道、暗くて心配だから送っていきたい。
なーんて分かりやすいセリフに、ありがとうだけじゃなく「トド松くん優しいんだね」なんて惚けた返しをする私も大概だ。

静寂に包まれた夜の道では、昼間とは違ってお互いの声だけしか耳に入ってこない。真っ暗な道はさり気なく手を繋ぐのに最適だし、普段は気まずく感じる沈黙だって、夜ならばロマンチック。家の前では別れを惜しむように長い長いキスをし、ムードが良ければそのまま私の家に雪崩れ込む。歳のわりに、とても不器用な男の子だなと思った。私だってそんなに経験の多い方でないけれど、そんな私が感じるくらいだから、トド松くんはいざ付き合った時のこと関しては相当手慣れていないのだと思う。
そっと隣を盗み見るが、ちょうど月明かりが当たらずトド松くんの表情は見えなかった。しっかりと恋人繋ぎで繋がった手のひらはじんわりと汗ばむ。どちらから分泌されたものなのかはもう分からない。

「名前ちゃん、来週は土日まで会えないんだっけ?」
『うんそうなの、ごめんね』

仕事が忙しくて、と普段なら躊躇うことなく口にする一言は自分の胸の内に留めた。とはいえトド松くんもいくらか察しがついているのだろう。自分が働いていない事には、多少なりとも引け目は感じてくれているらしい。もっと会いたい、会えなくて寂しい、なんてトド松くんが言えるわけがなかった。かといって仕事を頑張ってとも言えない彼は、結局上手く続ける言葉も見つけ出せず、曖昧に笑った。


****

「よし着いた」

見慣れた建物の前に辿り着くなり両手を取られ、トド松くんに引き止められる。こうなることが分かっていた私はすんなりトド松くんに従い、2人して見つめ合いながら道路の端に寄った。冷えていた手が、トド松くんのもう片方の手に包まれて温かい。きっと繋いでいなかった片手はポケットに入れられていたんだろう。トド松くんの親指が私の手の甲くるくると撫でる。

「名前ちゃん、どうかした?」
『トド松くんの手あったかいなって思って』
「もともと体温高いのかも。名前ちゃんの手は冷たいね」

覆っていた手が私の手を掴んだままトド松くんの頬に導かれる。ぴとっと触れたトド松くんの頬は男の子じゃないみたいにすべすべだ。思っていた以上に冷たくて咄嗟にもう片方の手も伸ばすと、トド松くんはくすぐったそうに身をよじった。そんなじゃれ合いをしながら、ふと目が合い、お互い手を止める。逸らそうと思えば簡単に逸らせるはずなのに、磁石が引き合うように、私はトド松くんの目から自分の目を離せない。私はこの恋人の瞬間が苦手だ。いつも心の中でこの状況を達観視し、平静を保つので精一杯だった。

「じゃあ名前ちゃん。また来週ね」
『え、あ……うん。また来週……』
「おやすみなさい」

あと何秒、いつ来るんだろう、どきどきと鳴り響く心臓とは裏腹に、トド松くんはころっと表情を変え笑顔で私に別れを告げた。まさか私だけがこのムードを感じていたわけではあるまい。でも、現にトド松くんはそんなムードが無かったかのように私に笑いかけている。妙に気を張っていた私に、この言葉は酷く残酷に聞こえた。
別れ際のキスもハグもなし、そんなことで騒ぎ立てるほど子供じゃない。でも、今まで一度だってそんなことは無かったし、トド松くんは別れるときいつも最後の最後まで別れを惜しむように私の手を握りしめてくれるのに。おやすみなさい、と言ったトド松くんは私が家のドアまで入るのを見届けてくれるようで、澄んだ目をしてその場を動こうとしない私を見つめる。

きっと相当間抜けな顔をしていたのだろう。仕方がないと言った顔をしたトド松くんは、情けなく振られていた私の手を掴み、そのまま自分の口元へ持っていった。

「どうかした?名前ちゃん」
『どうも……してないよ、うん。それより早く帰るね、トド松くんも遅くなっちゃう』
「名前ちゃん期待してたでしょ」
『え……』
「なんで、って顔してるよ」

あ、意地悪だ。まんまとトド松くんの思う壺にはまっていたことにようやく気付き、顔に熱が集まっていった。
“ビンゴ”、トド松くんの小さな口元が小さく上がるのを見て確信する。

「えっちだなぁ、名前ちゃん」
『違っ、トド松くんいつもと違うから、私どうしたんだろうって思って』
「名前ちゃんに不安な顔をさせるのは心苦しかったけどさ。違くしたんだよ、いつもとは」
『トド松くんって……』
「で、名前ちゃんからはボクのこと、誘ってくれないの?」

誘う、ことが何を表しているのか考えなくたって分かってしまう。女の子に少なからず幻想を抱いているトド松くんは、そんな私に幻滅してしまわないだろうか。じわじわと赤みを増す顔を隠すようにトド松くんに寄り添った。けれど私の心配なんて杞憂だったようだ。思った以上にトド松くんはこの状況を楽しんでいる。
そして彼は言うのだ、どうやら私は彼のことをとんでもなく侮っていたらしい。


「大丈夫だよ、ボクもちゃんと期待してたからさ」


[END]

テクニックがずるっこいトド松、扶養思い出しますね!さすがだ。

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