×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



春はむせかえるように甘い。
むんと立ち込めたにおいに思わず顔をしかめると、地面に咲いた小さな花を見ていた藍が不思議そうに顔を上げた。

「どうしたの、寒い?」
『ううん、大丈夫。それより藍ここら辺にする?』
「うんそうだね」

緑が埋め尽くす芝生の上で私は立ちすくしていた。この緑のカーペットの先には生い茂っている木が見えるだけで人の影は見当たらない。ぼんやりと棒立ちのままの私に構わず藍はテキパキと支度を始める。
布地の大きいバックから取り出すのは赤いギンガムチェックのピクニックシート、私の水色の水筒とお揃いのお弁当箱。それから2人で選んだコンビニのゼリー。わたしはみかんがたっぷりと入ったみかんゼリーにした。

『いい穴場でしょ、ここ。ここなら藍とも来れるかなって思って』
「うん」

2人にしては贅沢に敷いたピクニックシートの上で肩を並べて座る。私の言葉に首を向けた藍が嬉しそうに目尻を下げる。
ようやく寒さが無くなったばかりの春だというのにじりじりと照りつける太陽が肌を刺激する。本当は顔を隠すために被ってきた帽子だったけれど、藍が帽子を脱がないから私も被ったままにすることにした。少しだけつばを上げて空の水色を視界に入れる。

空が水色なのは当たり前だと言われて信じてしまいそうなくらい、澄んだ空はそこに大きく広がっていた。大地に緑が広がるのも当たり前。私の鼓動がとくとくと鳴り続けるのも当たり前。あたりに充満している花の香りに虫が引き寄せられ、時折吹く心地良い風は青く茂った木々を揺らす。
食休みで手持ち無沙汰になった私は目の前に咲いていたレンゲソウを摘む。

『はーあ、天気もいいし風も気持ちいいし、ずっとここにいたいな』
「……よかった」
『え?』
「最初あんまり楽しそうじゃなかったから。もともと自然の中でピクニックしたいって言ったのボクだったし名前は退屈なのかと思って」
『そんなこと、ないよ!』

押し倒すように隣に倒れこみ腕を絡ませる。びっくりした様子の藍だったが、すぐにいつもの顔に戻って、“幸せ、なのかな”、と小さく呟いた。
幸せ、幸せ。私も藍も今、世界中の誰よりもきって幸せだ。
絡ませた腕の薄手のカーディガンから感じる温もりは太陽の熱で温まったからなのか、はたまた藍の体温なのか。ともかく気持ちが良くて上半身の体重をすべて藍に預けた。

『藍とずうっとこうしていられるのなら私もうなにも望まないよ』
「していられるでしょ、絶対に」

太陽のもとで周りを気にせずこうして触れられていることが嬉しくて、思わず“うふふ”と下手な演技みたいな笑いが漏れた。

『ゼリー、食べよっか』
「うん」
『藍にもみかんの、あげるね』


[END]

お花畑に行きたかった私が書きました。
藍ちゃんと自然って大切な関係だと思います。