×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



寿嶺二に肩を組まれたことがある。ポテトを咥えながらふと思い出したように口にすると、前にいた友人は食べていた動きをぴたりと止め目を見開いた。バランスを崩したバーガーからぽとりとピクルスが落ちる。おお、ナイスリアクション。

それはとあるドラマの打ち上げの飲みの後。火照った体を持て余した人たちは二次会へ、そうでない者はこのまま駅へ。ぞろぞろと店先に溜まっていた時のことだった。私は次の日の朝から撮影現場に行かなくてはいけなかったから、同じように帰路につこうとしている人の群れに寄っていたんだ。そしたら酔っ払った寿嶺二が「さぁ!二ー次会だ!二次会だ!」って肩を組んで私を二次会勢の方へ引っ張っていこうとした。ただそれだけのこと。
しかも、意識が定かでなかった寿嶺二は“私”を誘ったのではなく、ただそこにいた“人”を誘ったにすぎない。

この“ただそれだけのこと”を自慢めいて口にしてしまった自分に少し後悔する。そんな私を知ってか知らずか友達は心底羨ましそうにぼやいた。

「いいよなぁ、テレビ局勤務は。」

酒臭かった。それなのに嫌だと感じなかったのはこの時すでに私が嶺二を贔屓目に見ていたからだろう。
とはいえ、それ以来メディアに露出する寿嶺二を見逃すことはなくなったし、現場で見かければ無遠慮に視線で追い、画面を通しては発見できない部分をカバーした。いつの間にか私にとっての寿嶺二は贔屓目なんて言葉じゃ収まらなくなっていた。友達に話をしたのもみっともない独占欲の表れだったんだろう。
贔屓目を驚く程通り越した思いはいつしか恋心に変わっていた。


そんな100%片思いから始まった恋が4年経った今、こうして両思いとしてまだ続いている。最初の1年は私の片思い、あとの3年は嶺二と過ごした大切な時間。
ベットの上でうつ伏せになった嶺二が私をじっと見上げる。お互い沈黙を恐れるような関係ではないのにその日の沈黙はなぜか私を落ち着かせなくて、場を持たせようと話したのがこの思い出話だった。
片手で触れていた嶺二の髪が指の間をさらさらと抜けていく。手持ち無沙汰で何度も指を通していると火照った嶺二の手の平が重ねられた。

『嶺二の手、熱いよ』
「だってスゴかったもん、さっき」
『……っそういうこと言ってるんじゃないの』
「じゃあどういうこと?」
『ただの感想。嶺二の手熱いね、っていう』
「だからぼくはそれの理由を言ったまでだよ」
『水。水持ってくるから』

“待って”

私よりも先に嶺二がそう言った。
そんなこと言わなくたってすぐ戻ってくるのに、嶺二ったらおかしいの。なーんて惚けてみせないと私はこの空気に押し潰されそうだった。
きょとんとしてみせる私とは正反対で嶺二が真剣な眼差しで私を見つめる。

「名前ちゃん、結婚しよう」
『けっ、こん?』

けっこん、けっこん……結婚。
聞きなれない言葉を頭の中で反芻し、三度目でようやく変換された。
そっか、私ってもう嶺二と結婚してもおかしくないような関係なんだ。大好きな人に結婚を申し込まれたというのに私ったら至極冷静で、そっちに驚いてしまったくらい。

『だって、だめだよ。嶺二はアイドルじゃない』
「そんなの君のためなら捨てられる」
『バカ言ってるんじゃないの。そんなこといったらファンが泣くよ。それに私だって嶺二のファンなんだから』
「ねぇ、名前ちゃんそれ本気で言ってる?」
あ、私本気じゃないな。
ここでまたふと冷静になる。
深く考えなくたって答えがただ一つなのは分かりきっていた。
私も嶺二と結婚したい。結婚してご飯を作りながらお互いの帰りを待って、少ししたら子供を育て始めちゃったりなんかもしていつまでも仲睦まじく暮らしたい。嶺二となら上手くいく気がするし、そもそも私は嶺二としかそんなことしたくない。
それなのに私は素直に頷くことができない。決して身構えてるわけでもないし迷っているわけでもないのに無意識に一歩下がって、何事もなかったかのようにまた歩き出そうとしてしまう。
いつでも私の本心を引き出してくれるのは嶺二だった。

「不安なんだ、名前ちゃん」
『そんなの当たり前だよ』
「じゃあおんなじ、ぼくちんも不安でいっぱい。でもね、さっきの話聞いて思ったんだ。これって運命じゃないかってね」
『やだ。そんなのクサイよ』

運命なんて言葉、私にはとっても恥ずかしい。とっても恥ずかしいけど嶺二との運命なら全然構わない。
嶺二と結婚、しちゃおうかな。なんて全国の嶺二ファンが聞いたら何様だと怒り狂うだろう返事をすると、嶺二は布団から飛び出し勢いよく私に抱きついた。よく考えたらお互い裸も同然の格好で何を言い合ってるんだろう。端から見たらロマンチックの欠片も感じられないのに、ぴっとり張り付いた肌から伝わる熱に浮かされてこれ以上なにも考えられそうになかった。

「はーあ、すごい緊張した」
『お疲れ様です』
「そうだ!未来のお嫁さんに膝枕してもらっちゃおーっと」

隔てるものが何もない、生の太ももに嶺二の頭が乗っかる。ふわっと香るシャンプーのにおいと、嶺二の髪がこそばゆい。

「ぼくの唯一の心残りはね。局にこんなに可愛い女の子がいるのに自分から見つけられなかったコトだな」
『なに言ってるの、酔っ払った嶺二が私を選んでくれたんじゃない』
「なんだぁ、ぼくって無意識でもセンスは抜群だから参っちゃうよね」

あぁ、今度友達に会ったら嶺二と結婚すること言わなくちゃ。3年間付き合ってることも言ってないからさぞかし驚くことだろう。
友達の驚く様子を想像して、私はこっそり顔をニヤつかせた。


[END]

肩に触れるがテーマのはずが、いつの間にか髪やら肌やらに…