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シャイニング事務所のカミュに興味を持ったのがそもそもの私の間違いだった。

「カミュは興味本位で近づけるような人間じゃないよ」

念願の初共演の日、カミュとデュエットなんかもしたことのある美風くんの言葉も無視して、私は真っ先にカミュの元へ挨拶をしにいった。自身は伯爵家出身、執事系アイドルなんて呼ばれている相手だから淑やかなフリして近づいたらあっさり見破られ、しかも夢にまで見ていたカミュからの第一声は「近づくな、愚か者」。ここでようやく美風くんの言葉が私の脳に達した。
見破られただけでなく、カミュ自身、執事系とは正反対の性格をしていると分かったものだからもう金輪際彼には近づきたくなかった。いや、近づいたらきっとロクなことがないと頭の中で警報機がビービーと危険を知らせてくれていたんだ。それなのに、あろうことかカミュが私に対する興味のスイッチを踏んでしまったみたいだ。
結局、私の“愚かな”好奇心のせいで、現在私はバカみたいにへこへことカミュの後をついて回る存在になってしまった。


「つまらなそうだな」
『別に、つまらなくなんてないです』
「ならば動物を見ろ、せっかく動物園にきたのだからな。ほらあの、カピバラ……なんだ、貴様そっくりではないか」
『それよりカミュが動物園なんてどういう心境?』

カミュと動物園はあまりに不釣り合いだった。いつも着ている白基調のジャケットは年季の入った建物をバックにするとあまりに眩しかったし、それはカミュの彫りの深い顔立ちや流れる髪も同様。せっかく香るカミュのコロンも動物園の獣臭さには敵わない。
まだ水族館の方がマシ。そもそも家族の集まるような行楽地がカミュの印象からはかけ離れたものだった。

「ふん、理由がなければきてはいけないというのか」
『別にそういうこと言ってるんじゃないけど』

カミュだって、進んで動物園に来たかったとは思えない。その証拠にせっかくの動物園なのにさっきから動物にはちっとも目もくれず、スタスタと檻の前を通り過ぎているだけだ。それなのに“動物を見ろ”だなんて無茶にも程があると思う。
ただ道なりに沿って前を向いているカミュの横顔をぼんやりと見ていたら、突然カミュに腕を引かれた。

「貴様……っこっちへ来い!」『えっちょ、やだ離してよカ……んんん』

半ば引きずられる形で連れ込まれたのは人目のつかない木陰だった。こんなところでいったいなにを言われるのかなんて出来れば想像したくない。
ようやく口元から手を退けてもらい、そうっと顔を上げると、鬼のような形相をしたカミュが私の肩をがっしりと掴んだ。

「人の集まる中で俺の名を呼ぶなんて、貴様何を考えてる」
『咄嗟に出ちゃったのよ。ごめん、けど……っちょっと、動物園ってそういうことする場所じゃないんだけど!』
「俺の前でため息とはいい度胸をしているではないか」

どうやら無意識にため息を漏らしていたようだ。
平日の動物園、人気のない木陰とはいえ周りは子供だらけ。そもそも真昼間の太陽の下だ。
股の間にカミュの足が差し込まれ逃げることすら許されない。ただいやいやと首を横に振ることしかできない私を見て、カミュは薄く笑い白い歯を見せる。

「動物園は退屈か?遠慮なしにこういうことが出来るところに連れて行った方が、確かにお前には良かったようだな」
『っバカ言わないでよ』
「声が震えてるぞ」
以前楽屋で同じようなことをされた時に言われたことがある。
“お前のその強気な姿勢がそそる”。
その強気が慣れない私の虚勢だということまで知った上で、だ。それでいて“そそる”だなんて嫌味だし、私のひとつひとつの反応を楽しんでいるカミュを見ていると恐ろしくなる。
その目が私を捉えれば不自然に視線を外すこと。顔を近づければ頬が染まること。手が頬に触れれば身構えること。
まったく性格が悪すぎる。

『これ以上ばかにしないで!』
「しかし口ばかりでこの状況をどうにもできないのがお前なのだから仕方あるまい。きゃんきゃん喚いてどうするつもりだ?」
『こう……するのよ!』
「なっ」

力任せにカミュの胸を押してその腕を掴み明るみに出る。
簡単に逃げられるとは思っていなかったのに意外にもあっさりカミュの体を引き剥がすことができた。
驚いてるのはカミュも同じのようだ。きっと私が逃げ出すわけがないと油断していたのだろう。

「おい何する!離せ!」
『動物園デートなんじゃないの?動物見なくちゃ意味がないじゃない』

強気なところが好きなら、たっぷり好かれてやろうじゃないの。
さっきまであんなに迫られていたくせに、男の人の腕を掴むだけで心臓が壊れそうなくらいバクバクいってる。カミュがどんな顔をしているのか、見るのがあまりに恐ろしくてちらりとも振り返ることもできない。
それなのにカミュは抵抗することなく私の引っ張る方へついてくる。

『カミュ、次はなにを見る?』
「貴様の好きなものを見ればいいだろう」
『じゃあライオン!』

きっとこの手を離した時、私はカミュにものすごい剣幕で迫られるんだろう。もしかしたらひどく後悔することになるかもしれない。今まで以上にカミュのあたりが強くなって泣くかもしれない。
それでも今、こうしてついてきてくれるカミュと一緒に動物園を回れることが嬉しくて、私はもう一度握った手に力を込めた。


[END]