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横断歩道、導く手

「久しぶりに帰り道会ったと思ったらコレ?」
『ゔるざい……』

花粉症の季節でも風邪の季節でもないというのに、間抜けなことにどこかで鼻水の止まらない菌をもらってきたらしい。2日前から私はこの休みを知らない症状に際悩まされていた。
話ながらも流れ出てくる鼻水を啜っていると月島が無言でテッシュを差し出してくれる。

『ありがと、"ほたる"くん』
「ほたる じゃ ねぇ」
『久しぶりだから忘れたの』

まるで小さい子に言い聞かせるようにご丁寧に一語一語区切って教えてくれる。分かってるわよそんなの。久しぶりだから間違えてみただけ。
中学の時はバトミントン部とバレー部、同じ体育館使用部活同士顔を合わせていた。それで少し仲良くなれたかな、なーんて思ってたのに高校に入って1ヶ月。私がバトミントンを辞めたせいで校内でもめっきり見かけなくなってそれっきり。
そんな顔見知り程度の知り合いがニヤニヤしながら私の肩を叩いたのだ!思わず横断歩道の前で立ち止まってしまいこうして待つ羽目になった。

『なんだっけ、同じクラスの中谷さん?月島が付き合ってるの』
「お前までンな噂信じてるわけ」
『なに、噂なのあれ』
「明らかに噂だろ。大体話したこともないっていうのに」
『じゃあきっと中谷サンの片想いだね。よっモテ眼鏡!』

面倒くさい酔っぱらいに絡まれた気持ちだって。あからさまに嫌そうに苦笑いをする月島を気にせずチーンと鼻をかむ。

『月島、優しかったもんね。中学の時みんながやりたがらない委員会も立候補してたし』
「なんでそんなこと知ってんの」
『山口が廊下で言いふらしてた』
「アイツ……」

他にもたくさん知ってる。中学の時から月島に片想いし続けてる女の子が月島と同じクラスになったこと。うちのクラスの子がもう月島を話題にしていること。メガネ長身の男の子、見た目そのまんまじゃない。入学してまだ1ヶ月なのにみんな早すぎるんじゃないの。
相手のことよく知りもしないで……ってあれ、私も月島のことは噂と山口が言ってたことくらいしか知らないや。

『んー』
「どうかした?」
『月島が久しぶりすぎてどうやって話せばいいか分からないや。普段どんな風に女の子に話しかけてるのリードしてよ』
「ごめん無理、普段女子と話さないから」
『うそ』

嘘じゃない。

「僕、球子じゃなかったら話しかけないし。誰にでもほいほいテッシュ貸したりしないんだけど」
『……このテッシュ返さなきゃいけないんだ』
「そこかよ」

試しに使い終わったテッシュを差し出してみるときっぱりと断られた。
あれ、また背伸びたんじゃないの。夕焼けの反射した眼鏡がオレンジ色に光る。髪型は変わってない、眼鏡もたぶんそのまま。首に下げたヘッドフォンが少しごつくなった気がする。あとは……

「っていうか信号青じゃん。何してんの、行かないの?」
『ねぇ、月島』
「ん、なに」
『ティッシュくらい貸してあげなよ』
「嫌だよ、あとでめんどくさい」


、導く手
(なにこれ、胸がきゅーっとする)

(そういえば月島と話すといつもこうなるんだっけ)
(変なの、どうしたらいいんだろう。)


[END]