memo | ナノ
 200820 わんちゃんになって可愛がられる話

理由はわからない。わかるはずもない。目が覚めたときにはもう手遅れだったんだ。気がつくと俺は柴犬になっていた。俺自身意味がわからない。ていうか人間が犬になるなんてあるわけない、聞いたこともない、あってたまるか。だけど街中のショップの窓越しに見える自分はどう考えても小さくて、ぴょっこり耳が生えている。加えてつぶらな瞳。自分で言うのは気が引けるが、よくみかける可愛らしい柴犬そのものだった。
(なんなんだよこれ 夢なんだよな…?)
まじまじと窓を眺めててしてし窓をタッチする。短い手が見えて、やけにリアルな夢だなぁなんて考えていると、不意に脇――前足の下に手が差し込まれて 脚が地面から浮いていく。
(なに、なんなんだ)
慌てて首を動かして俺を抱き上げたらしい人物を確認すると、そこにいたのはオッドアイの顔の整った男の子だった。
『誰ですか』そう聞きたいのに俺の口から出るのは『きゃんきゃん』というなんとも弱そうな鳴き声だけだった。畜生。夢なのに融通は効かねぇのかよ。喋れたっていいだろ、と内心悪態をついていると あれよあれよという間に男の子の腕の中に抱きしめられた。あったかい。
するとショップの中から店員さんらしき女性の方が飛び出してきて、男の子に頭を下げる。
「すみません萬屋さん、助かりました。
このわんちゃん、朝からここで眠っていて…私は犬アレルギー、主人は犬が苦手で困っていたんです」
「こんなのお安い御用ですよ」
「また困った時はよろしくお願いしますね」
「勿論です、いつでも電話してください。今後ともご贔屓に」
そういって二人は互いに頭を下げると、片方は店の中へ もう片方は「さてと」と言葉を零した。
頭の上から視線を感じて顔を上げればオッドアイと目が合う。さっきはまじまじと見れずに気付けなかったが、この男の子は目元に1つホクロがあって なんだか色っぽかった。あとやっぱり顔が整っている。そんなことを思いながらじっとしていると、頭の上に大きな手が置かれて くしゃりと優しく撫でられた。気持ちいい。
「お前、人懐こいなぁ。飼い犬か?迷子の捜索願は今のところ来てないが――どうすっかな」
なにやら考えている様子の男の子。俺の記憶が正しければ飼われてもなければ 迷子でも無い。そもそも俺は犬じゃない。れっきとした人間だ。昨日まで大学に通ってたんだ、そして今日も行くはずだった。なのに。起きたら犬。起きても夢。どうゆうことなんだろうな。はぁ、まぁいいや 考えてもわからんもんはわからん。一度寝て 目を覚ましたら 今度こそは現実に起きられるだろう。
『寝るよ』と言いたくて 『きゃん』と吠えると、男の子は少し驚いた顔をして 不思議そうに俺を見つめていた。まぁ、そうなるか。言葉通じないしな。とりあえず俺は寝る。心の中で意気込んで、俺は目を閉じる。
「寝る気、なのか…?」ちょっと困惑したような声が聞こえたけれど、なに 気にすることはない。これは夢なんだ。すまんな誰だから知らない男の子。


そして俺は意識を失って、再び目を覚ましたんだ。
くぁ、と大きく欠伸をして ぐぐぐっと身体を伸ばす。
きっと俺は現実に戻ったんだ そう思ったのに、目に入ってきたのは 大きなソファと、さっきより増えた 俺を見下ろすオッドアイ。
「あ、いち兄 わんちゃんが目を覚ましました」
「ぶっ、三郎ォ、わんちゃんって面かよお前」
「うるさいな!犬は犬、わんちゃんも犬だろ!!」
「おいこらお前ら静かにしろって、こいつがびびってんだろうが」
…………いや?俺はどっちかというと、声よりこの状況にびびってるよ?
「………くぅん」
思ってもない声が出る。完全に困り果てた声だった。一体ここはどこなんだ。


続く?かはわからない

prev / next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -