memo
 0729 さよならまでの恋心

お兄ちゃん そう慕っていた人が
実の兄ではなかった

それを知ったのは
同級生の心無い一言が発端だった。

『お前 拾われた子なんだろ
だから他の兄ちゃん達と違うんだ』

―――確かに
僕には 他のみんなと違って
ホクロもない 目も普通だった
髪も癖っ毛じゃない。

『んなこと気にすんじゃねぇ』
一番上のお兄ちゃんも
次の兄ちゃんも 弟だって
そんな事は関係無いと
言いきってくれていたけれど。

………僕は正直 ホッとしたんだ。



「じろーくん」
呼べば振り返ってくれる兄ちゃん。
「なんだよ恭
また何か言われたのか?」
…何も言ってないのに
心配してくれる 優しさに
心が暖かくなる。

「なんでもないよ。
…でかけるんだよね 行ってらっしゃい」
「おう。今日は兄ちゃんもいねぇし
三郎もでかけるっつってたから
なるだけ早く片して帰ってくるけど、」
「わかってるよ
じろーくんが間に合わなかったら
今日の夕飯は僕が作る」
「おう 頼むわ」

靴を履いて いそいそ
出かける準備をする背中をみつめる。
僕はこの背中が好きだった。
ううん。じろーくんのことが、好きなんだ。
兄弟としてではなく。恋愛対象として
好きなんだ。

「じゃあ 行ってくる」
「うん 気をつけて」

パタンと閉まったドアを確認して
鍵を閉め、ふうと息を付く。

出て行く前のじろーくんの笑顔が
頭から離れなくて 少しだけ頬が熱くなった。
いつから好きだったのか
それは皮肉にも 僕が゛貰い子゛だと
虐められた頃からだ

幼いながらに誹謗中傷に晒された僕に
真っ先に気付いてくれたのは
偶然通りがかったじろーくんで。
わけも分からずにショックを受けて
立ち尽くす僕に 言ってくれたんだ
『恭は恭
俺らの兄弟だ』――――


それから事あるごとに
じろーくんは僕を守ってくれて
イジメっ子をぼこぼこにしてくれたりして。
「じろーくん ごめんね
怪我痛くない?」
「別に。痛かねぇよ」
なんて会話をしながら
手当したのも 今となっては懐かしい。

いつだって守ってくれる人を
好きになってしまうのは
初恋も未だだった僕にとって
ある意味自然な事だったんじゃないだろうか

って そう思うんだ。

例えこの恋が叶わないものだとしても。
今だけは 側で見つめていたい。

…ほんとの兄弟じゃないんだ。
だったら少しだけ 本気で恋焦がれてみても
いいよね?

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