memo | ナノ
 0621 慕う人

出会ったのは組に入ってすぐの頃だっただろうか
「テメェ名前は」
そう聞かれてビビり倒していたのを
よく覚えている。

あの頃の左馬刻さんは簓さんと常に一緒で
俺は常にその背中にあこがれていた。
けれど横に並んだり、ましてや
後ろで控えることさえも できないって
遠い存在だと思っていて。

簓さんがいなくなるなんてことも
ちっとも想像がつかなかったんだ。




「笹川」

左馬刻さんは俺のことを苗字で呼ぶ。

「はい」
「明日の7時に車回せ」
「わかりました」

「それから飯でも奢ってやる、」
「え」

驚いて左馬刻さんの顔をみると
あ?と妙な顔をされる

「いえ 左馬刻さんから
お誘い頂けるなんて 珍しいなと、」
「そういやお前とそう行く機会も無かったな」

ふう、と煙草をふかすと
ほろ苦い様な香りがその場に充満する。
俺はこの匂いが好きだ。

…左馬刻さんのテリトリーのなかにいる
そう実感できる。

「で 返事は」

「勿論 お供させて頂きます」
深く頭をさげると おう、と一言だけ
返ってくる。

「あの 左馬刻さん
質問しても よろしいですか」
「かてぇな。別に構やしねぇよ。
ただし変な事聞きやがったらぶっ飛ばす」
「ありがとうございます」

再びお辞儀して
顔を上げると ゆっくり口を開く
「左馬刻さん、もうオールバックには
されないんですか」

過去の 出会った頃の姿を
今でも思い出す。だからこその質問だった。
いつだって左馬刻さんはかっこいいけれど
俺は…あの時の 綺麗な目がよくみえる
あの髪型が好きだった。

「は、何を聞くかと思えば
しょうもねぇ」
「すみません」

思わず苦笑して やはりバカなことを聞いたと
猛省する。「今のは忘れて下さい」
そう訂正するつもりだったのに、

「お前 昔の俺様の方が好きか」

なんて。

まっすぐ目をみて聞かれてしまえば
言葉は頭から消え去って 真っ白になる

「あ、の…それはどういう意味でしょうか」
「そのままの意味だ。
――初めて会った時の笹川の顔は
今でも覚えてっからな。
ビビってるかと思えば キラキラした目で見やがる」

恥ずかしくなって 手を握った
緊張と、ドキドキがバレないように
我慢する。

左馬刻さんも 出会った頃を
覚えてくれていた。
何より ドキドキしていたこときっと
バレていたんだ。

「――すみません」
搾り出せた言葉はそれがやっと。
「あぁ?何謝ることがあんだよ」
「俺はずっと――貴方に 憧れてるから、」

そこまで言って口を噤む。

「別に かまやしねぇよ。
これから先離れていくも 変わらねぇも
テメェの自由だ」

俯く俺の頭に大きな手が乗せられる

誰のものかなんてみなくてもわかる
ずっと 俺が憧れてやまない
大好きな、人の手。

「…俺は ずっと左馬刻さんに
ついていきますよ」

「ハ そうかよ。
―話はここまでだ。行くぞ 恭」



恭――


初めて呼ばれる名前に心が温かくなる。
ああ。俺は やっぱりこの人の盾になりたい。
どこまでもついていこうと 心の底からそう思った。


prev / next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -