memo
 0527 春の頃

「おや 笹川さんではありませんか」
そう声をかけられて振り向くと
夢野幻太郎先生が立っていた。
「あっ 先生!お久しぶりですっ」
ぺこっとお辞儀をすると
夢野先生も軽く会釈をしてくださる
それが嬉しくて自然と笑みがこぼれた

「先生呼びは恥ずかしい故
やめてほしゅうございます」
少し高い声で顔を背ける仕草は
言葉とは裏腹にどこか情緒的で
つい見惚れてしまうほどだ。

「…聞いておられましたか?」
チラりとこちらに向けられる視線に
我に返る

「あっ、す、すいませんっ
せんせ いえ 夢野さんが あまりに
綺麗だったので…その、見惚れてしまいました」

「…ふむ 綺麗、ですか」

復唱されると急に羞恥がこみあげてきて
顔に熱が集まる。ぼ、僕 さりげなく
誤解を招きかねないこと言ったんじゃ!?

あたふたする僕をよそに、
先生はじぃっと僕の顔をみながら
近づいてくる。

顔と顔の距離が縮められ、
もうすぐ鼻先が触れるか というところで
ふっと笑った顔が見えた。

「そのような言葉
わらわには もったいのうございます」

明るい声で いつもの様に
どこか誤魔化されたと感じたのもつかの間
「ですが」と続けざまにつむがれた言葉は
普段通りの先生の声そのもので――――

「貴方に褒められるのは
悪い気がしません」

そう言ってにっこりと笑ってみせた
その顔と言葉には 嘘はないように思えた。

見惚れる僕をしり目に先生は
僕の横を軽やかな足取りで過ぎ去っていく。

ふんわりと華の匂いが
華を掠めて 釣られるように後ろを振り返る。
先生も 僕の方を振り返った。

交わる視線と 優しくあげられる口角。
「――今の言葉 嘘だと思いますか?」

僕の答えはきっと 知っているはずなのに
求めているかのように問う先生は
とても神秘的で けれど触れたいと思わせる
不思議な要素を兼ね備えていた。





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めちゃくちゃぐだぐだ
20190527


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