男主SS
 そんなこんなで仲直り

アホみたいな時間に家のチャイムが鳴ってしゃあなしにドアを開けに行ったら いつものアホ面が目に入った。
「よっ!皆の人気者簓さんやで〜」
「知らんな おやすみ」
半分開けたドアを勢い良く閉めようとすると、すかさずあいつの革靴がドアの間に挟まれて「ちょお 待たんかい!」とか言うてそのうち腕も差し込まれる。こいつ 細い癖にどんだけ力強いねん。
「深夜帯に押しかけといて待たんかもクソもあるか。俺は眠いんや せやから帰れ」
「まぁまぁ待て待て待て〜久々の恋人の登場なんやで?冷たすぎて簓さん泣いてまうわ」
「さよか。ハンカチくらいやったら貸したるわ。涙拭いたら帰れよ」
「冷たっ!!!!優しいかと思ったのにぜんっぜん冷たいやん なぁ恭ちゃん」
いつの間に出したんか あいつ愛用の扇子でツンツン腕を突かれて、むかっとして手で払うと 簓はほんまに寂しそうな顔をしてみせた。
(………ふん)

「…大方終電逃したから帰られへんとかで俺の所に来たんやろ」
「名探偵やなぁ。その通り」
「お前が来る時は大体そうやからや。…ソファは貸すから適当に使え 俺はもう寝る」
伝えるだけ伝えると、その場にいたくなくて 足早に寝室へ帰ろうとする。するとおもむろに腕を掴まれて、抱き寄せられた。身体に腕が回されて あったかい体温が背中に広がる。そんで簓の匂いに包まれた。
「恭。寂しい思いさせてゴメンな」
「ッ、なんやねん急に…」
「『俺は都合の良い時にしかけーへん』て、そう思ってるんやろ?」
「……ほんまのことやん」
小さく呟いた言葉が 自分の心に回り回って突き刺さる。

…俺と簓は付き合っとる。付き合っとるはずやった。せやけどあいつの仕事が忙しくなって だんだん東都での仕事が増えてきて すれ違うようになった。デートも出来ひんくなった。一緒にいる時間が減った。最近会うときと言えば、こうやって 終電逃したからとめてくれ、って言う時くらいのもんで。冷たくならん方がおかしいやろ こんなん…!!

「簓 もう放してくれへんか。俺もしんどいねん、」
「恭、」
「ッうるさい 呼ぶなっ」
「本間にごめん。せやけど放されへん。恭に寂しい思いさせてしもうとるのも 俺が我儘ゆってるのも分かっとる。それでも放してやられへんねん」
「…ハ、わけわからんて。都合良く泊まれるとこが無くなったら困るってそんだけちゃうん?!なら他にそんな奴作ったら―――」
「俺は!!お前がええねん。恭と一緒に居たい。オオサカにおれるちょっとの間だけでもお前と一緒に居たいんや。たった数時間でも、朝まででも」
真剣な声色に、心が揺らぎそうになる。それでも俺かて 腹に抱えてるモンは沢山あんねんから。手を強く握って感情を吐き出す。
「そんなこと言うたって お前は…俺の事抱きもせんようになったやんけ…。ちゅーだってそんなしてへん、やっぱり男は無理やったんちゃうんか?お前はモテるし、俺なんかより 女の子のほうが良かったんちゃうんか…?!」
言ってて虚しい 心も苦しい。目の前はボヤケるし声は掠れるし。最悪や。ずっと思ってたこと吐き出して 簓との付き合いももうこれで終わったかもしれん。
「ッ…わかったらさっさと手ぇどけろや、」
あーあーあー。もう。めっちゃ涙声最悪や ダサすぎる。
逃げ出したいのに簓の手は離れるどころか力強なる一方で、耐えきれなくなって抜け出そうと藻掻いたけど抜け出されへんくて。ほんま細腕のくせに どこにこんな力あんねん。腹立つ。

ポロポロ溢れだした涙を手で拭いながらじっとしていると、肩に顎が乗せられた。これはあいつが弱ってる時 ようやってくる甘え方。
「…俺の言い訳、聞いてほしい」
「…」
「夜にしか来られへんから、抱きたい〜なんて言われへんかった。恭かて仕事の後やし、明日も仕事やろし。俺の我儘に付き合わせて 遅刻とかさせてしもたら 申し訳がない。ちゅーだって何だって ずっとしとうてしゃあないで。俺はお前だけを愛しとる」
「〜ッ!!!うそや、」
「嘘じゃあらへん。俺が好きなんは お前だけやで、恭」

切実な、嘘のない声色でそう言われて 心が大きく脈打った。結局俺も、簓のことだけが好きで 愛してて…。ずっとこうやって言われたかったんや。
「泣かせてごめん 寂しくさせてごめん。そんでも この先もずっと俺のそばにおってほしい」
かっこええこと言うたかとおもたら、らしくなく不安そうな弱々しい言葉に 思わず吹き出しそうになる。なんやねん。
「ハ……ほんまにお前はとんでもない男やな、我儘にも程がある…。話 聞いたってもええよ。せやけど条件がある」
腕の中でくるりと方向転換して簓と対面する。泣き顔見られるのは嫌やけど 泣いとったの気付かれてたやろし、今更や。ギュっと抱き着いて、ちっちゃい声で条件を伝える。
「…今から 俺を抱いて欲しい」
驚く雰囲気を感じながら 再び背中に回された腕と、頬に添えられた手にドキドキする。
「朝まで離されへんかもしれん」
「ええよ」
「…久しぶりやし、優しくする」
「うん…。せやけど……激しくしてほしい…」
「ッ!!どうなってもしらんからな、」
「かまへんよ。簓の好きにしてほしい」

いつぶりかの愛を告白しあって 久しぶりにしたちゅーは 凄く幸せで。心も身体も満たされる時間になった。



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