◎ 我儘な注文
※バトル結果発表が現実同様後日のてい※
「明日、お前に言いたいことがある」
「え」
不意に声をかけられて振り返ると、そこには少し落ち着かなさそうな彼が立っていた。いつも冷静なのに珍しくソワついている、それが珍しくて何度か瞬きをして見つめる。
「そんなに見るなよ」
「あ、ごめん。でも、僕に言いたいことって?今じゃ駄目なこと?」
問うてみると三郎くんはこくんと頷いて、視線を少し迷わせた後に僕の目を見ていう。
「…恭に 言おうかずっと、迷ってたことがあって それは明日の――――ディビジョンラップバトルの結果が出た後に聞いてほしいんだ」
ディビジョンラップバトル――――知らない人はいないその名前に、そういえばと思考を巡らせた。三郎くんはイケブクロディビジョンの代表だ。それこそこのイケブクロでBuster Bros!!!の名前を知らない人はいない。なんてったって自分たちの代表だ。それに、お兄さん達と一緒に戦っているのだという話も、あまりにも有名すぎるものだった。
(だけど どうして結果が出た後なんだろう?)
「どうして明日じゃないとダメなのか 聞いてもいい?」
すると彼の様子が僅かに変わった。きっとこの変化は 三郎くんとよく一緒にいるから分かるんだろう、それくれいの僅かなものだった。少しだけ視線を彷徨わせた後、落ち着いた様子で口を開く。
「ダメだ。理由は明日話す」
「ははは、」
結局明日まで持ち越しになりそうだ。いくら聞きたいと強請っても 三郎くんは首を振らないだろう。なんとなくそんな気がして 僕は頷くしかできない。
「わかった。僕も結果発表の中継みてるから 時間ができたらラインとか、」そこまで言いかけた所で 首を振られてしまった。いつもラインするのにどうして?不思議に思ってじっと見つめていると、「直に会って話したい」んだという。
「わは、我儘だね」
素直に笑って言うと ムッとした顔になるけれど、怒ってはいないようだった。
「悪かったな。とにかく 明日結果発表が出て、時間ができたら連絡する。だから時間開けとけよな、絶対だぞ」
念押しで強く言うなんて、余程話したいことがあるんだなあ。そう思うと無意識に口元が緩んで「はーい」とお返事を返した。三郎くんはどこかホッとした様子で僕に背を向けて離れていく。
僕は呼び止めることもなく 小さくなっていく背中を見つめていた。
(ふふ。時間は未定なのに゛開けとけ゛って無茶だなぁ)
だけど嫌じゃないと思うのは 心の奥底にある、あたたかな気持ちのせいなんだろう。
(いつもこうして我儘に振り回されるけれど それさえ心地が良い。きっと僕は重症なんだ)
青と緑の綺麗な瞳に見つめられると どうしたって心が躍ってドキドキしてしまう。一緒にいるだけで満たされていく。僕だけの、゛恋゛という感情に 踊らされ続けるんだ。
(三郎くんと両想いなんて 一生あり得ないってわかってるのになあ。それでもいいって思っちゃうんだ―――こうして傍にいられることが、一番うれしいもん)
君に一番大切な人ができるまで 君の我儘な注文は僕が独り占めしたい、なんて。それこそ我儘だろうか。
※尚翌日三郎から告白をされますハッピーエンド
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