◎ お題箱 500字SS
雪がしとしと降り積もる。
息を吐けば白いモヤが上へ上っては消えた。
前を歩く僕と同じ背丈の華奢な背中をみて
僕は立ち止まる。その間も目の前の背中は
歩き続けて、数メートル離れた所で
僕は口を開いた。
「三郎」
呼べば彼は鬱陶しそうな顔をして
振り返った。
「なに」
黄色いマフラーに埋められた
頬は寒さで僅かに赤い。
(それを見られるのも あと少し)
「受験が終わったら離れ離れだ」
「だから何」
「三郎と一緒にいられるのももう少し」
僕の意図をくみ取れずに、彼の顔が
苛ついたものへと変わる。
(こんな顔を見られるのも後少し)
「…三郎、別の学校に通いだす前に
僕に想い出をくれないか」
そういうと、僕は怪訝そうな表情をした
彼に一歩一歩近づいていく。
僕は三郎が好きだった。友達の少ない僕に
唯一できた貴重な友人。それは彼も同様だったようだ。
けれど僕は――彼にそれ以上の感情を抱いてしまった。
ぎし、ぎし、と白い雪を黒く汚しながら
歩いていって 三郎の傍までいく。
「なにも言わないでほしい」
そう言って 僕は彼のマフラーを少しだけ
指先で押し下げて、彼の唇へ自分の唇を重ねた。
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