MHA
 あいつのこと

いつもみたいに特訓してたのに また結花の家にやって来た。
いつも知らねぇ間にここに飛ばされるし、知らねぇ間に元に戻る。時間は体感1時間くらい、でも 特訓に戻った時おとうさんは俺を叱ることはなかった。

どこに行っていたと怒鳴られると思ったのに、1時間前と変わらない反応で 淡々と指示を出されて。
「…怒らないの?」
そう聞いてみても 「なんのことだ」と返されるだけで、そんなのを数日繰り返していくうちに 俺なりに仮説を立てた。

理由はわかんねーけど 俺は1時間テレポートできるようになった。何故か決まって場所は結花ん家。
ただその移動した1時間は 何故か現実の時間には反映されていない。
じゃないとおとうさんが何も言ってこない理由が見つからない。
訳がわからない。止める方法も 何でこうなるのかも。

「燈矢くん?どうしたの?」
「…なんでもない」

結花はいつも一人だった。親は共働きで、夜遅くに帰ってくるらしい。ご飯も何もかも全部一人で食べて、一人で寝るんだと。
『結花ね ずっとひとりだったから、燈矢くんが遊びに来てくれて嬉しいの』
遊びに来てるわけじゃない。気が付いたら此処に居る。ただそれだけだ。
自分じゃどうにもできないだけで、来たくて来てるわけじゃないのに 結花は俺が来るといつでも嬉しそうにしてた。

(…結花と話すのも 勉強を見てやるのも ただの暇つぶしだ)

「…宿題終わったのか」
「ううん、わかんないところがあって 燈矢くんにおしえてほしくて、」
そう言って結花が出した算数のプリントは 不自然なくらいくちゃくちゃで、隅っこは破れかけているくらい酷かった。
「お前、これ」
「!なんでもないよ、平気だよ」
結花はそう言って笑う。手に貼った絆創膏も 頬についたかすり傷も。何を言っても『なんでもない』って言う。そんなお前が嫌いだった。
(どうみたって大丈夫じゃないだろ)

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