愛を誓います。

物心ついた頃には 僕に家族は居なかった。
親戚は口々に言った、
゛お前の家族は夜逃げしたんだ゛と
゛お前は貰い子だから捨てられた゛のだと。
名ばかりの親戚をたらいまわしにされた挙句
辿り着いたのはヤクザの使いっぱしり。

最初は殺されるんじゃないか
人身売買されるんじゃないか、そう
思っていたけれど――――今となっては
僕の居場所として定着していた。

何故なら僕は
予想外に毎日を楽しんでいた。
好きな人ができたからだ。

毎朝、早くに起きて身支度をする
ご飯を作って 食べた後は、真っ先に
別室のドアの前に待機するんだ。
そして開いたら瞬間に、声を上げる。

「左馬刻さんっ!おはようございますっ!」

元気よく声をかけると、気怠そうに
部屋の主様が出てきた。
銀髪に赤い瞳。僕の、保護者のような人。
碧棺左馬刻さん。

「恭。
毎朝俺様を待つ必要はねぇつってんだろ
テメェは大人しく学校行けや」
「それでも僕は左馬刻さんの
お顔を見て行きたいんです」
「…新婚夫婦か」

しんこん…?

意味がわからなくて首を傾げつつ
近くに置いていたランドセルを背負って
再び左馬刻さんに挨拶をする。

「左馬刻さん 行ってきますね、」
「あぁ。気を付けて行って来い」
背を向けようとして、
伝えたい事があったのと
日課をしていないことを思い出した僕は、
もう一度左馬刻さんの方へ向き直って
口を開いた。
「そういえば
今日のご飯 いつもよりきちんとできたと
思いますっ!自信作です」
「そうかよ。楽しみにしとくわ」
「………」

じぃ、っと
左馬刻さんを見あげたまま
僕はその場で立ち尽くす。
これは日課の一環だ。

いつも不思議そうな顔をされた後に
あぁ、と頭をかいて 僕の目線の高さに
屈んでくれる。

そしてほっぺにキスをしてくれるんだ。
今日も今日とて、頬にキスしてもらって
満足した僕は いつもなら
左馬刻さんの頬にキスを返す、
のだけれど 今日は特別な日 だから
怒られちゃうかもと思いながら、
唇にそっと自分の唇を重ねた。

目を見開いて固まる左馬刻さんを置いて
僕はそそくさとその場を後にする
「恭テメェ、」
「いってきまーす!」
「待ちやがれ!」
「待ちません!大人しく学校行けって
言ったの、左馬刻さんですよっ
いってきまーす!!」

二度目のいってきますを言って
制止する声を聞かずにお家を飛び出していく。

左馬刻さん
左馬刻さんは覚えてないかもしれないけれど
今日は僕がここに来て、1年なのです。

なんの縁も無い、ひとりぼっちの僕を
引取ってくれて居場所をくれた貴方は
何よりも大好きな人で
何よりもそばにいたい人。

(…ずっと 一緒にいられますように)

そう密かに願いながら
足早に先を急いだ。


―――――――――――――


―――――――――



左馬刻side


最初は叔父貴がどうしてもっつうから
引き受けたガキだったが
恭が楽しそうにしてる顔見たら
まぁ悪かねぇとそう思っちまう。

最初はビビるどころか死んだ目をして
ガキとは思えねぇほど静かだったが
まさか普通に過ごしていくうちに
ここまで懐かれるとは思わなかった。

家を飛び出していった背中を見送って
感慨に浸りながら立ち上がり、
テーブルへと歩いていく。

するとそこには いつも通り
あいつ手作りの目玉焼きとトーストが
ラップをかけて置いてあった。
ただ一ついつも通りじゃねぇことが
あるとするならば 皿の横に1枚の紙が
置かれてるこったな。

手にとって椅子に座り 目を走らせる。
平仮名多めで 世辞にも綺麗とは言い難い
手書きの文字の羅列。
一生懸命書いたであろう姿が
目に浮かびつつ。

『さまときさんへ
ぼくがきて 一年が経ちました
いつも ありがとうございます
これからも だいすきです
あいしてます

恭』

「――――ハッ、愛してるなんて
どこで覚えてくんだマセガキが」
とんだラブレターだなと思いながら
目を細める。にしてももう一年も経つのか。
気にしちゃいなかったから
気付いてなかったけどよ、せっかくだ
何か服でも買ってやるべきか。
どうせなら、とびきり旨いもん食わせて
やるのもアリだな。
あいつがまだ見たことねぇモン
食ったことねぇモン 見せてやりてぇ。

(…とりあえず 今日は放課後
迎えに行くか)


煙草を取り出し吹かしながら
今後の予定を組み立てていく。


――――この時は
思ってもいなかった。

まさか 恭の言う愛しているが
俺様の思ってる゛親愛゛とはまた
別のモンだったって事。
そして、数年後 成長した恭に
夜這いをかけられたのは
また別の話だ。

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