これからもずっと、

ひらひらと桜が舞い落ちる中
卒業証書を片手に、中学校を後にする。
校門を通り過ぎた 少し先の道で
僕はずっと探していた人を見つけ出した。

黄色いパーカーのフードは、
遠く離れていても よく見える。
彼の近くには、別の人影が二つみえて
きっとお兄さんたちだろうと予想はできた。

家族団欒。

なのだろうけれど、今は
気にしていられなかった。
鞄と証書を握りしめて 息をあげながら
黄色めがけて走っていく。

「さぶろーくん!!!」

おっきな声で呼ぶと、黄色がこちらを
振り返った。そして僕を見るなり、げ
という顔をする。

「三郎、お前の友達か?」
「つかお前ダチとか居たのかよ」
「うるさいな。
…佐々 何の用だよ」

ぶっきらぼうに放たれた言葉に
僕は肩で息をしながら、
言葉を紡いでいく。

「あ、あのっ
ちょっとだけお話がしたいんだっ
いいかな…?というか、いいですか…?」
おずおず、傍にいる 三郎くんの
お兄さんたちに確認すると『どうぞどうぞ』
という言葉と何やら暖かい視線を送られて
やったと喜びつつ、三郎くんの手を掴んで
できるだけ人気のない 大通りから
死角になっている場所へとやってくる。


人気から離れた所で、
三郎くんが口を開いた。
「…佐々。
佐々ってば!!」
振り返るとムスッとした表情の彼と
視線が交じり合う。

「三郎くん
ここに人はいないよ?
どうしてまだ 苗字呼びなの?」
「…うるさい。
それより 何でいち兄や二郎がいる時に
声をかけたんだ。僕たちの関係は
誰にも内緒だって決めてただろ」

゛内緒の関係゛――

そう。そうなんだ。
三郎くんと僕は、所謂お付き合いをしていて。
けれど周囲には絶対明かさない
友達の様な雰囲気すら感じさせない、
日常では縁の無い人間だと装う
それを条件に付き合っていた。

きっと他の人からすれば
息の詰まるような話なんだろうけど。
僕はそんなの どうだってよかったんだ。
だって、大好きな三郎くんと
一緒にいられるのだから。

っと。そんな思い出話はさておき
僕は今日、三郎くんにお願いがあって
追っかけてきたのだった。

「お兄さん達がいるのに、
おっかけていっちゃった事は ごめんね。
でも、最後の挨拶が終わってすぐに
三郎くん居なくなっちゃってて
捕まえられなかったから。
慌てて追いかけてきたんだよ」
「…僕に 何の用なの」

また素っ気なく呟かれる言葉。

だけど思うんだ。三郎くんはきっと
僕が何を言おうとしてるか知ってる。
わからないはず 無いんだ。
なのにこうやって言わせようとする。

きっと、彼からは
言ってくれない言葉だから。
僕から引き出そうとするのだろう。

「あのね、三郎くん。
卒業しても ずっと
僕と一緒にいて欲しいんだ」

賢くて、綺麗で 冷静な君が
とっても大好きだから。
ずっと、例え 違う学校に進学するとしても
僕は 君のそばにいたいんだ。

「…」

三郎くんは、黙ったまま
じっと僕の顔をみつめていた。そして。

「恭」

と僕の声を呼ぶ。さっきまでとは違う、
酷く優しい 僕の大好きな声で。

「…ずっと 僕の傍にいろ」
「!!うん、ずっと いるよ。
…三郎くん 好き。大好きだよ」

そういうと、一歩だけ彼の方へ踏み出して
グッと背伸びをして頬へとキスをした。
唇にすると、こんなところでって
怒られちゃうかもしれないと思って。
せめてと思ってほっぺにしたのだけれど。
踵を地面につけたところで再び名前を呼ばれる。

「恭」

なんだろう、と思って顔をあげた刹那
唇に触れる 柔らかい感触。

「―――――――、
三郎くん、」
驚いて目を丸くする僕に、
いつになく悪戯っぽい顔をした彼は
綺麗に笑ってみせた。
「マヌケな顔」

「だって、ちゅーするから、なんで…?」
いつもは外では絶対ダメっていってたのに。
どんな風の吹き回し何だろう。
ぽかんとし続ける僕に、三郎くんは言う。

「…離れるのが寂しいのは
お前だけじゃないって それだけだよ。バーカ」


思わず緩みきる頬に
三郎くんも ほんの少しだけ笑った様な気がした。
三郎くんの好き、は わかりにくい事も多い。
だけど、今はハッキリと 痛感していた。
君に好かれているという 間違いのない証拠。

素っ気ないフリ 冷たいフリ
けれど優しくて傍にいてくれる。


―――ああ、やっぱり 僕は 君が大好きだ。

君のわかりにくい所も わかりやすい所も全部
僕にとっては 大事な宝物なんだよ。

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