&Thank youD

「よし。話も纏まったとこで
ろうそくに火つけっか」
「兄ちゃん、ケーキさっき
慌てて出しちゃったから
ろうそく立てるとこからだよ」
「あぁ、そうだったな」

一郎さんとじろくんのやりとりを横目に、
僕はケーキへと視線を下ろす。
白いクリームで覆われたホールケーキは
全体に苺が散りばめられていて
すごく美味しそうだ。

「ねぇさぶくん
このケーキ いつ買ってきたの?」
何となく聞いてみると「今日だよ」と返事。
「今日…もしかして一郎さんが?」
お仕事終わりに買って来てくれたのかな?
そう思って聞くと「俺じゃねぇよ」と
首を振られる。

「じゃあ じろくんかさぶくん…?」
二人に視線を移すと 一郎さんと同じ様に
首を横に振るのだった。
うーん?

「じゃあ一体誰が…?」

僕の問いかけに三人は顔を見合わせて
苦笑する。
「?」
首を傾げると、一郎さんが口を開いた。
「あー…わりぃ。
実は恭がやった今日の依頼は
これなんだ」
「えっ?」
思わず聞き返す。
??今日の依頼は パン屋さんから
荷物を運ぶこと。あのパン屋さんは
確かケーキも取り扱っていた――
そこまで思い当たった所で、話が
続けられる。

「本当は今日仕事終わりに行くつもり
だったんだが、飯のの準備間が
間に合わなくなりそうでよ」
「兄ちゃんの代わりに俺か三郎が
って話になったんだけど」
「二郎が放課後担任から呼び出し
くらって遅れるって言い始めて
僕は飾り付けと細かな
買い出しに追われたから」
「―――なるほど、それで
僕に内緒で受取お願いしたんだね」
「そういうこった」

そっか。そっかぁ
一日を振り返ってみると 確かに
この依頼は不自然な事があったな、と思う。
例えば具体的な内容がなかったり
最中にお買い物を頼まれちゃったり。
でもお話を聞いていたら納得だ。
僕の頬は自然と緩んでいく。

「へへ 皆僕の事想っててくれたんですね」
おこがましいかもしれないけれど
気持ちが伝わってきて嬉しくならずに
いられない。
皆僕の為に準備やお料理をしてくれたんだ。
こんなに嬉しいことはない。

「ありがとう御座いますっ!」
そう言って軽く頭を下げると
がしがしと頭を撫でられた。
この手つきはじろくんのような気がする。

「そりゃ気にすんだろ」
「恭は僕達の弟だからな」
何気ない言葉に心がじわりと温まって
頬が熱くなる。
「じろくん さぶくん ありがとう
一郎さんも…ほんとにありがとう御座います」
あぁ。僕はすごく 幸せだってそう思う。

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