03.

世話の焼ける、おっちょこちょいな弟と
いつから一緒だったかなんて
そんな事は覚えて無いんだ。僕も小さかったし。

恭が生まれた日のことも、よく覚えていない。
なんとなく覚えているのは、
小さくて柔らかい手を触ったかもしれない――
そんな ぼんやりとした印象だけだった。


いち兄曰く 僕と恭は
昔からよく一緒にいたそうだ。
よたよた歩きの脚のおぼつかない恭を
そんなに背の変わらない、歩き方を
覚えたばかりの僕が 手をとって
一緒に歩いていたとよく聞かされた。
全然覚えて無いけどね。

今もよく一緒にいるのは
部屋が一緒だからというのも
あるだろうけど。正直、一番頼られてるんじゃ
ないかって 少しだけ感じてる事はあるんだ。

勉強だって 道だって。
考えて考えて、わからないまま 項垂れて。
あいつは僕に向かって、助けてほしそうな顔をする。
二郎やいち兄に言わないようなことも
僕だけには言ってくれてる…と思ってる。
ちょっとだけ優越感。いや。いち兄程の兄には
なれないけれど。頼られるのは 悪く無いと思えた。


…どんなに方向音痴で おっちょこちょいでも
僕にとって 唯一の弟だからな。



きっとお前は知らないんだろう。
寧ろ永久に気づくなとさえ思う。

僕は 恭と話したり、
夜な夜なボードゲームをしたり。
そんな日常を それなりに気に入っている。
絶対に言ってやらないけどな。

相部屋なんかまっぴらだと思っていたけど
それも今じゃ遠い昔の話に感じた。


…いつか 恭も
ナビとか使いこなせる様になって
僕たちの助けなんかいらなくなるんだろう。

そうなって欲しいと思う反面、
今はまだ 世話の焼ける弟でいてほしいような。
なんとも言えない気持ちを抱えて
騒々しくも穏やかな日々をすごしていく。

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