&Thank you

キンコンとチャイムが鳴って授業の終わりを告げる。
今日も1日長かったなぁなんて思いながら
リュックに荷物を詰めて、いつもの様に
さぶくんと一緒に帰ろうとした。のだけれど―――
ブブッとバイブ音がして、リュックの中にある
スマホをみてみると ラインが1件入っていた。

送り主は今まさに会いにいこうとしていた
さぶくんからだ。

えと、なになに…
『今日は用事があるから
先に帰っていいよ
あと依頼が入ったみたいだから
そっちをよろしく』…?

依頼?
なんのだろう?
そう思いながら文面を眺めていると
新たに1枚のスクショが送られてきた。

画面をタップして、それを拡大する。
内容は―――

『17時にxxベーカリー』

えっ これだけ…?

要件が無いだなんて珍しい。というか
行くだけでいいのかな?首を傾げながら
『行くだけでいいの?』と送ると
『そう』とだけ返って来る。

う、ううん
なんだかよくわからないけれど
これが依頼だっていうなら、うん。
僕だって萬屋の一員なんだ これくらい
やってみせるぞ。

不安を抱えつつも、よし、と意気込んで
スマホをポケットに移して学校の外へと
繰り出していく。

xxベーカリーは確か
学校からすぐ近くの所で、美味しいと有名な
パン屋さんだ。何度かさぶくんと買い食いを
したことがあって、なんとなくは場所を
覚えている。大丈夫。のはず だ
うん。頑張ろう…

そんなことを考えながら、
リュックの肩紐を握って 一歩踏み出すのだった。



―――――――


――――



「ありがとうございましたー!!」

店員さんの明るい声と共にウインと
自動ドアが閉まって、僕はといえば
外で立ち尽くしていた。

手には大きな箱を抱えて
ただひたすらに茫然としている。

なんだろう、これ?

そもそも、どうしてお店に着いただけで
こうなったのだろう。僕は指定通りお店について、
とりあえず中に入ったんだ。
でも どうしていいか分からなくて、
さぶくんに連絡しようとした矢先 店員さんに
声をかけられた。

『萬屋さんですね?お待ちしておりました!』

ニコニコと笑いかけてくれるお姉さんに
僕はえっ、あ、と困惑することしかできず。
だって 名乗りもしてないのにバレちゃってたんだもん。
あたふたする僕に 店員さんは首を傾げて続ける。

『あれ、違いました?』
『い、いえっ!あってます!あってます!!』
そう慌てて肯定したことは
今思い出してもちょっと恥ずかしい。

ただ問題はその後で、
『はい こちらがお品物です!』

そう手渡された時には 流石に
首を傾げるしかなく。
かといって これは何ですか、って
聞く勇気もなくて。そのまま外に出て来て
しまったのだった。

(…もしかして、
ここから配達の依頼に変わったりするのかなぁ?
でもどこに?)

益々わからないや。
こうなったらさぶくんにライン――ううん
一郎さんに聞いた方が早いかもしれない。

そう思って箱を落とさない様、脇に抱えつつ
スマホを取り出して 電話をかけた。
コール音が鳴り始めてすぐに電話がつながる。

『おう 恭どうした』
「あの、一郎さんすみません
今受けてる依頼のことで聞きたいことが――」
『わりぃ 今どうしても手を離せねぇ
仕事してるんだ だからそのまま帰って来てくれ』
「えっ」
『じゃあな』
「えっ あ、あの!!」

プツッ

(…切れちゃった)

うーん。困ったなぁ。
そのまま帰るっていっても、きっと配達だよね?
今日中に とかだったら困っちゃうし。

じろくんにも聞いてみよう。

じろくんのプロフを開いて通話ボタンを押す。
押した、ものの 何度コール音が鳴っても
出ることは無かった。

(ううん もしかして学校…?)

こうなればさぶくんに、と思って
同じく通話ボタンをタップしたものの
秒で切られてしまった。

えっ ひ、ひどくない…?

少しだけしょげながら画面をみつめていると
『電車』と 一言だけ送られてきて
ほっと胸を撫でおろす。なんだ電車かぁ。
それじゃでられなくても、しょうがないよね。

とりあえずラインで聞いてみよう。

『荷物を受取ったんだけど
これはどうすればいいの?
さぶくん知ってる?』

三郎
『いち兄の言った通りに
すればいいよ』

その返答にギョっとする。ううん…?
一度持ち帰る、で あってるってことだね…?

珍しいな。とも思いつつ
『わかった』とだけ返信して 僕は箱を
抱えなおす。とにもかくにも、この荷物を
無事に持ち帰ろう。
僕にできるのは それだけだ。

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