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▼ 17.弁解

「なぁ山田 世の中には悪循環って
モンがあると思うんだわ」
「んだよ急に…」

事は数分前に遡る。
授業が終わった後に、女子達に
弁解をはかろうとした俺は
まっさきに沼澤さんへと声をかけた。
俺から話を聞いて、多分、誤解の末
倒れてしまった女の子だ。
純粋な子で、俺の話をきちんと
聞いてくれて 困惑しつつも理解してくれた。

問題は次。俺と山田が疑われる原因となった
女の子――つってもま、俺の説明が悪かった
せいもあるんだろうが。とりあえず、
事の発端である久留井の元へと
向かった訳なんだが。


『だーから、あれは誤解だって』
『嘘よ!あの時否定しなかったじゃない!』
『あの時ィ?』
『付き合ってたんならいいなさいって
言ったわよ。その時よ。
恭くん何も言わなかった』
『あー…?ごめん聞こえてなかった』
『信じられないわ…!だって、今にも
キスしそうだったし…!!
否定すればするほど疑わしいって
思わなかったの…!?とにかく信じないからねっ!』

彼女はそうまくしたてると
足早に教室を移動してしまって、冒頭に戻る。

「久留井に説明したけど無理だったんだよ」
はぁ、と溜息がちに山田に言うと
怪訝な表情をされる。
「無理ってどーいうことだ。
久留井さんってさっぱりしてるから
話がはえーイメージだったけど」
「それがそうもいかねぇっつーか。
さっぱりつーかストレートっつーか。
こっちが否定すればする程事実だと思い込む
タイプで埒が明かなかったんだよ」
「マジか」
「マジマジ。
っつーわけでさ もう普通に過ごしていくしか
ねぇと思う訳よ。どう思うじろちゃん?」
「じろちゃん言うな。
…まぁお前の話は分かった。
聞いてもらえねぇってんならフツーに
するしかねぇし、他の子もそれみて
分かってくれる――と信じたいな」

肩を竦めて話す山田は、本当にいい奴だ。
あんだけ誤解されるのを嫌がってたのに、
俺が弁解できなかったって言ったら
すんなり理解して 女の子を責めることもせず
誰も責めずに 受け止めてくれる。

俺はいいダチもったな、なんて柄にもなく
思いながら 山田の肩に腕を回して
ちょこっとだけ体重をかけて寄り添った。
「マジもつべきものはダチだわ」
「あのなぁ!今の流れでこれはやめろ、
ちけーんだよ…!!」
「そうかぁ?」
「そうだよ 離れろ!」

こつ、と胸板を肘でつつかれて
どくよう指示されると渋々離れて
けらけらと笑った。
嫌がる割に引き離し方もどことなく優しい。
それが山田という男らしい。

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