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▼ 12.接近?

山田は俺の催促に相変わらず
ビミョーな反応してたけど、練習だと
割り切ったのか渋々俺の手に手を重ねた。
俺は片手に持っている台本をちら、と
確認する。みているページには
細かな動作まで指示が書き込まれていた。
(えーと、立ち上がって
姫の腰を抱き寄せて…回転?
ダンスってことか?)
考えつつ、台本を机に置くと 空いた手を
山田の腰に回して抱き寄せた。
そしてくるりと回った拍子に、お互いの
脚がもつれバランスを崩した。

「うおっ、」
(やべぇ、コケる…!!)
そう思った瞬間身体は勝手に動いていた。
素早く脚を踏ん張らせて抱いている
山田を離さないように更にグッと抱え込み
床への落下を防いだ。
つっても、床の代わりに机の上に
倒れちまったけど。つか俺ださ!!

「わりぃ山田、大丈夫か…、」
声を掛けてハッとする。
山田も同じことを思ったのか、相互に
顔を見合わせて止まっていた。
(ちけぇ……)

気が付けば俺の目の前にあいつの顔がある。
キスできそうなくらいには近い。
あーあ。山田が女の子だったらなぁ、なんて
ぼんやり考えているなかで バサッと
何かが落ちる音がした。

「「??」」
俺も山田も音のした方へ視線をやる。
するとそこには 今落ちたのであろう
ダンボールと、わなわな震える女の子。
(あれは…久留井だな)

「久留井、大丈―――」
「……によ…、」
「…あ?」
大丈夫かよ、って聞こうとしたのに
あいつときたらなにかを呟いている。
でも距離があるぶん俺には聞こえなくて
「聞こえねーって」と返す。
すると久留井は何を言うでもなく俯いて
スッとダンボールを持ち上げて、
教室へ入り 部屋の隅にダンボールを置いた。
そしてそのまま俺達に背を向けて
教室を去ろうとする。
(なんだ、あいつ?)
怪訝に思っていると、あいつは
教室を出る手前で少しだけ
後ろを振り返った。

「………なによ。
付き合ってたんなら言いなさいよね」
「………は?」
誰と?と聞き返そうにも 久留井は
走り去ってしまって 呼び止める事も
ままならなかった。

「んだよあいつ、変なの。
わけわかんねーよなぁ」
な、と山田を見ると なんか
気不味そうな顔をして俺から
視線を逸していた。

「なぁ、佐々…多分俺ら
勘違いされてんだろ」
「勘違ィ?なんの」
「や、だから付き合ってるって」
「はぁ?なんでそうなる」
「この体制見たら誰だってそう思う
…かもしんねーだろ」
ため息がちに言われて 改めて己の
体制を見返すと まぁ確かに、
事故とはいえ机に山田を押し倒して
居るようにもみえなくはないし
なんなら顔も近くて 見ようによっては
今からちゅーする様に見えなくもない…?

「けどそんなことあるか?
俺は超ノンケだし女の子好きだぞ?
あいつも知ってんだろ」
「俺に聞くなって。でもじゃなきゃ
あんなこと言ってかねーだろ」
「はぁ…?んー、まぁ なるようになんだろ」
「楽観的だなお前」
「心配する要素あるかよ?
俺と山田だぞ?ダチでしかねぇわ」
「まぁ言えてるな」

気を取り直して続きやろうぜ、と
話しだした俺達は 翌日から
ちょっと面倒な事になるなんて
ぜーんぜん思っていなかった。

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