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▼ 11.放課後ふたりで

「演技の練習?」
思わず声をあげて聞き返すと
目の前にいる人物・山田二郎は
顔色を変えることなく「ああ」と頷いた。

「つかまさか山田から
練習したいとか言われると
思わなかったんだけど?
お前そういうキャラだっけ?」
「うるせー
俺だってするときゃすんだよ、
つか 兄弟が観に来る」
「ああ」
と納得して手をポンっと叩く。

「お前ブラコンだったっけ」
「誰がブラコンだ
俺はにーちゃんの事を尊敬してるだけだ」
「あー怒んなおこんなって。
練習、別にいーけどさ。
〇ック奢りな」
「わかった」

――そんなこんな、
放課後に練習をすることになった
訳なんだが――

「まさかの教室でやんのな」
「場所がねーかんな」

夕陽が差し込んでる放課後の教室は
俺達以外に誰もいなくて、
何か練習するには持って来いなんだろうけど
いつも過ごしている場所なせいか、
妙にそわそわするっつーかさ。
うっかり誰か戻って来て
みられたら、なんて どぎまぎしないでもない。
演技とかやったことねーしな。

「とにかく、俺とお前のシーンが
大半なんだ。息合わさねーといけねぇとことか
読み返しとこうぜ」
台本を開きながら山田が言う。
因みに俺らが座ってんのは当たり前に
自分達の席だ。
んで向かい合って台本をおっぴろげてる。

「山田と俺の絡みって割と
中盤からだよなぁ?んじゃ最初は
すっとばして〜…」
ぺらぺらと頁をめくりながら
王子との初対面シーンへと辿り着く。

「んじゃ俺から読んでくから、
佐々も続けよ」
「ん」

「『ああなんて美しい姫なんだ
私と一緒に踊って頂けませんか』」
「『私でいいんでしょうか…?』」
「『ええ是非貴方と』」
「『…!よろしくお願いします』」
「『近くで見るとますます美し』」
「…待って」
「あぁ?んな台詞ねーだろ」
「今のは台詞じゃねーっての。
普通に待ってって」

手に持っていた台本を机の上に置いて
山田の顔をみると、なんだ?と
不思議そうな顔をしている。

「単刀直入に言う。
棒読みにも程があんだろ」

そう。山田はビジュアル的にはまんま王子だ。
が。ここ最近練習を重ねて気づいた事は

「ほんっと〜〜におめーは
気持ちが籠ってねーなぁ」
はぁ、と溜息をつくとムッとした顔で
反論が返って来る。
「しょうがねーだろ、演技とか
やったことねぇし…」
「にしてももっとこう、あんだろ、
感情いれるとかさ」
「つか何で急にんなこと言い出したんだよ」
「この後のシーン」
「この後ォ?」

席を立って山田の方へ1歩進み出る。
そして奴の持ってる台本を覗き込んで、
指をさした。

「この後 お前が俺に告白するだろ。
でも告白の時だってお前は棒読みだ。
俺的にはもうちっと感情込めて
ここまで持って行ってほしいわけよ」
だって俺、姫だぜ?
告白される側だってもっとムードとか
欲しい訳さ。いくら演技っつってもさ。

「これって恋愛じゃん?
棒読みで美しいとか好きとか言われても
アガんねーじゃん?」
「確かにな…アガりたい、って
お前の気持ちは知らねーけど
観てる人もそう思うかもしんねぇし」
「だろ?…俺が見本すっから
まぁみとけよ」

こほん、と我ながらわざとらしい咳ばらいをして
山田の前に片膝をついてみせた。
そして片手をあげて山田の方へと差し出す。

「『あぁ、なんて美しい姫。
私と一緒に踊って頂けませんか?』」

台詞を言った後、俺は顎で
差し出している手を指した。
「あ?何」
「手。取れよ」

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