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▼ 10.王子とご対面

準備開始から半月経った頃。
放課後、俺達二人は女子に呼び出されて
多目的教室へとやって来ていた。
いつもならここはだだっぴろいだけで
なーんにも置かれてねぇ教室なんだけど、
いざ着いてみると 見慣れないカーテンやら
生地やら裁縫道具がいくつか置かれていた。

『衣装できたから合わせてくれる?』
そう言って俺達にそれぞれの服を手渡すと、
女子達は一斉に背を押してきて
簡易的な試着室に押し込められてしまう。
相変わらず女子の勢いはすげーな、って
そういう感想しか出てこない。

にしても―――手渡されたドレスを
まじまじと見てみる。
(すげークオリティの高さ)
あとよく見ると金髪のウィッグもドレスの下に
紛れ込んでいて、用意周到だなと感心する。

…とりあえず、このまま突っ立ってる訳にも
いかねーから渋々服に手をかけ着替え始めた。

が、思い他着方が分からずに
頭を傾げるハメになった。
袖はここで…つかすっげースースーする!
はぁ…落ち着かないったらねぇな。
サイズ的には採寸してもらったお陰か
バッチリピッタリフィット。問題無し。
ウィッグの被り方はまぁ こんなもんだろう。
ただ後ろのファスナーは 自分でどうにもできねぇし…
どうすっかね。

悶々としていると外から声がかけられた。
「なぁ佐々 まだかよ」
声の主は山田だ。つかもう終わったのかよ
はやくね?王子だからンなもんなのか。

「まだ。あ、てか山田
後ろのファスナーあげてくんない?」
超名案じゃねーか。そうと決まれば
さっさと試着室を出て山田に背を預けよう。
そう思って勢いよくカーテンを開けて
「うお、」と思わず声をあげる。

「びっ くりした…!」
開けてすぐ真ん前に応じ姿の山田が立っていた。
マジあっぶねぇ…勢いよく出すぎて
うっかり胸にダイブするところだった。

ふう、と一歩下がると
山田が言葉を発さないことに違和感を覚えて
ん?と顔をみつめる。山田は目をぱちくりさせながら
俺の顔をみていた。なんだっつーんだよ。
「んなに似合ってねーかよ
悪かったな」
はぁ、と溜息ながらに言うと いや、と
初めて声を発した。

「思いの外似合ってる、つうか
フツーに女子にみえる…あの佐々が」
どの佐々だ。
「褒められてる?貶されてる?」
ちょっと不機嫌気味に返すと
「褒めてる」と一言。うれしかねーけどな。

ムスっとしつつも そういや
山田の王子姿ちゃんとみてなかったやと
気付いて、改めて見直して素直に声が出た。
「うわ…」
「なんだよ」
今度は山田がムスっとする。
「あの山田が輝いてみえる」
「どーいうこった あぁ?
お前こそ貶してんのかよ」
じと、っと睨まれて 緩くクビを振る。
「すげー褒めてる。女だったらときめいてた」



俺達がお互いをみながら褒め(?)あっている一方で
周囲の女子達は「惚気てんの?」などと
溢していたとかなんとか。
まぁ。傍からみりゃ王子と姫だもんな。
惚気てはねーけどさ。


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