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▼ 6.とある昼下がり

昼休みに入った途端のことだ。
俺はふとあることを思い出した。
「あ…やべ 課題やってねーわ」
提出は今日で 確か、やってねーと
いのこりがなんとかっつってたっけな…。
居残りはだるすぎる。

横を向くと机に手をついて
立ち上がっている山田に目がいった。
「なぁ山田 課題みせてくんね?
今日提出のやつ」
「課題…?げ」
嫌そうに顔を顰める姿に
ははん、と察す。

「なんだよお前もやってねーのかよ」
「お前もだろ?つうか俺に
課題みせてとか聞くのかよ」
「まぁな。言えてる。山田の課題とか
八割間違えてそうだし」
なにせ赤点と補習の常習犯だからな。
と1人納得していると、
山田の眉間に皺が寄る。

「おめーもだろうが。
佐々だけには言われたくねぇ」
「だってわっかんねーもんは
わっかんねーもん 勉強興味ねぇし。
山田もそうなんじゃねーの?」
何気なく聞き返すと「まぁ、」と
小さく返って来る。

「あーあー。やめだやめだ
こうなったら二人で仲良く居残りすっか?」
「居残り…?」
きょとん顔をする山田に、今度は
俺がきょとんとすることになる。
なんだこいつ、もしかして よっちゃんの話
聞いてなかったのか…?

「よっちゃん言ってただろ?
課題出してねーやつは今日の放課後
残って説教って」
覚えてねーの?と重ねてきくと
あいつは硬直してしまって動かない。

「おーい 山田?山田二郎くーん?」
目の前で手を振ってみるも
動かなくて、山田の顔がみるみる
青ざめていく。
「何?どうした訳?
どうせすぐ終わるって居残りなんて
だから気にすんなって」
「…居残りがいやなんじゃねぇ」
「へえ」
「…今日一郎兄ちゃんから
頼まれてる事があって、すぐ帰らなきゃ
いけねーんだよ」
ふんふん、と頷いて話を聞く。
一郎兄ちゃん。噂のB.Bか。
つってもそんな知らねーけど。

「お前のにーちゃんってこえーの?」
聞くとこくん、と頷く姿に
俺は一つの案をひらめいた。
「なぁ山田 この際居残りなんて
サボっちまえよ。
俺がテキトーに嘘っゆってごまかしとくし」
「マジか。けどそれじゃお前が
担任に怒られんだろ」
「いーって別に。
ただあんさ 1個お願いあるんだけど」
「?なんだよ?」

実は俺が忘れたのは課題だけじゃない、って話で。
お昼を迎えた学生になくてはならないものを
すっかりホーム(家)に忘れて来てしまったわけで。

「あんさ 山田いっつも女子から飯
貰ってんじゃん?ちょ――っとだけでいいから
わけてくんね?」
「はぁ…?お前自分の弁当は」
「忘れた。多分家の机の上」
かーちゃんが『机の上に置いとくからね』って
言ってたとこまで記憶はあるのに、
すっかり忘れて家を出て来てしまった。
弁当を忘れるのは何気に人生初で
少し落ち込む。

「…別に 取引みてーにしなくても
困ってる時くらい助けるしよ。
誤魔化しの礼はまた別にする。
つかさせろよな」
「山田、お前…」
山田二郎という男。
女子からモテてんのは知ってたけどさ。
こいつ 顔がきれーなだけじゃねーのな。
いろんなところで芯から優しい奴なのだと感じる。
頭があれなのが傷だけど、って
俺には言われたくないか。ともあれ、

「山田 お前本当にいい奴なんだな」

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