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▼ 5.あちぃしやってらんね

ミンミンとけたたましいほどに
鳴ってる虫の鳴き声にげんなりしながら
額の汗をぬぐった。

「なぁ…やべぇってこの暑さ」
思わずぼやくと少し離れた所から
返事が返って来る。
「そうだな。つうか手、止めんじゃねーよ。
帰れないだろ」
「…わりぃ」
はぁ、と溜息を溢しながら
手に持っている掃除用具を握りなおす。

さっき喋ったのは山田だ。
隣の席の山田くん。
そしてここはコケまみれのプール。そう。
俺達は二人仲良く、不本意ながら
プール掃除を任されていた。

「っておい 手止めんなって
言ったばっかだろ」
「ごめん ごめん
やる。やるよ じゃなきゃ帰れねーもんな」
はぁ、とまた溜息がこぼれる。
話は遡ること1時間前。

1限目から既に気分は憂鬱だった。
黒板に書かれた『校内一斉清掃』の文字を
バックに、よっちゃんが喋りだす。

「今日は事前に言っていた通り、
校内を一斉掃除する日だ。
学年・及びクラスで役割分担をして
くまなく綺麗にしていく」
各所の担当を伝えていく中、クラス中から
溜息と気だるげな声が聞こえてくる。
勿論、俺も例外じゃなかった。
隣の山田も。

「俺らの学年はプールと体育館
それに校庭の片隅…なぁ分担箇所多くねぇ?」
机に伏せながら横に視線をやると
オッドアイの目と視線が合う。
「確かに多いよな。
まぁ、今回は学校の周辺も掃除するって
話だから 人数足りてねぇんだろうけどさ」
思いの外冷静な返答に驚きつつ、
再びげんなりとする。

「周辺なんて学校と関係なくねぇか」
「イメージ、なんじゃねえの?」
「学校の?」
「そう」
「イメージとか俺ら関係なくねぇかな…」
うげ、と机に突っ伏すと、不機嫌な声が
教室に響いた。

「おいこら、佐々に山田。
話を聞いていたのか?」
「聞いてません」
あ、やべ 素直に返してしまった。
「ほう。いい返事だな。
…ちょうどいい。人手が足りなくて
どう分散させるか悩んでいたところだ。
二人にはプール掃除をやってもらおう」

その瞬間にざわ、と教室がどよめく。
いや。いやいやいや。
よっちゃんは今なんて言ったんだ?
「山田、今なんて言ってた?」
顔をあげて聞くと、げんなりした顔の
オッドアイが少し恨めしそうにこっちを見ていた。
「…俺とお前でプール掃除」
「嘘だろ?嘘だよねよっちゃん」

ね?と首を傾げながら教壇に目をやると
しかめっ面の担任と目が合う。
おお。どうやら本気だったらしい。

―――と、そんなこんな
大体俺のせいで またも山田を巻き込んで
仲良くプール掃除中ってわけ。
畜生。このクッソ暑い中男子高生を
しかもたった二人で、だだっぴろいプールを
掃除させるなんて。今日ばかりはよっちゃんが鬼にみえた。

じりじり太陽にやかれて、
汗が出るのを感じながら モップで
コケまみれのプールをこすっていく。

「山田ぁ…マージでごめんな」
「別にいーって。
ここまできたらやるだけだ」
うわ…こいつ、いいやつすぎんだろ
思わずじーんとする。
ぶっちゃけ山田が掃除する必要って無いのに。
俺が『聞いてない』なんて言ったから
巻き込んじまったのによ。

「山田…お前マジでいいやつだな
ハグしてい?」
冗談めかして言うと、露骨に
嫌そうな雰囲気が漂ってくる。
「やめろ暑苦しい つうかそれより
掃除しろ!!」
「へーい」

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