▼ 361.2
左馬刻さんが言っていた゛会わせたい人゛は、
大雨の中やってきた。
朝ごはんを食べ終わり、お部屋で
のんびりしていた時のことだった。
お布団にくるまってころころしていると、
左馬刻さんがやってきて、僕に声をかける。
「恭 起きて来い」
「はーい」
お返事をして、身体にお布団を
巻き付けたまま左馬刻さんの背を追って
リビングへと向かって行く。
そこにいたのは1人のお兄さんだった。
「初めまして、入間です」
お辞儀をされて、僕もぺこっとお辞儀をする。
お兄さん――入間さんがどうぞ、と
ソファを手でさしたのをみて
僕は横に立っていた左馬刻さんをみる。
すると目があった。
「ん。座っとけ」
…左馬刻さんがそういうなら。
と思って、布団にくるまったまま
ソファへと座った。同時に入間さんが喋りだす。
「失礼、いくつか質問をしたいのですが
構いませんか?」
こくん、と頷く。
「まず、貴方の名前を教えてください」
「恭です」
「できればフルネームで…
苗字もお願いしたいのですが、」
苗字…?
苗字、っていったら――――
「被検体 010522(ゼロイチゼロゴニーニー)番」
そう言うと二人共口を閉ざしてしまった。
沈黙を破ったのは左馬刻さんだった。
「恭、ふざけてんじゃねぇぞ」
呆れた声で言われて、少し振り返って
立っている左馬刻さんをみあげる。
「ふざけてないよ。これが僕の苗字だって
先生は言ってた」
「先生、とは どこの先生ですか?」
「施設の先生だよ」
「先生 とは貴方の親御さんで?」
「うん。僕の生活の全部をみてくれる人
皆が僕の先生で、親みたいなもの なんだって」
自分の知っていることを
話せば話すほどにシンとしていく。
左馬刻さんも入間さんも、眉間に皺が寄っている。
やがて左馬刻さんが僕の真横に座って、
ぐいと顔を近づけてきた。
「嘘言ってねぇだろうな?」
低い、少しピリっとした声だった。
こくんと頷いて肯定する。
「嘘はつかないよ」
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