▼ 362
よっかめ。
左馬刻さんに電話をすることを覚えた僕は
たくさん左馬刻さんにお電話をした。
『かけすぎんじゃねぇ』
って言われたものの、なんだかんだ
左馬刻さんは僕とお話をしてくれる。
「左馬刻さん お外は晴れてるの?」
「晴れてる。窓から見えんだろ」
「窓?」
キョロキョロ視線を彷徨わせて
グレーのカーテンがひかれた場所へ
移動して、そっと横へひいてみると
「わぁ、」と思わず声が出た。
大きな窓からみえるのは 街と空と
いつか資料で見た外の世界だ。
「左馬刻さん 僕もお外に出てみたい」
「あー、まぁなんだ いい子にしてたらな」
「いい子にするよ
だから絶対連れていってね」
カチャン、と音をたてながら
電話を元に戻して窓の近くへと戻る。
空をみてみたくて。
広い街並みをみてみたくて。
左馬刻さんが帰ってくるまで
ずっと ずーっと窓の傍にいて、
外を眺めた。
そしたら太陽の日差しがあったかくって
眠たくなってきちゃったんだ。
(ぽかぽか暖かいの、落ち着くや。
…ここで寝ちゃおうかな。)
大急ぎでベッドまで走っていって
お布団をひっぱって、戻るのはまた窓際で。
身体にぐるぐるお布団を巻き付けて
ころんと寝転がる。これで完璧だ。そう思った。
かえってきた左馬刻さんが
溜息をついていたことは、僕は知りもしない。
暖かい目でみてくれていたことも
抱きかかえてベッドに連れていってくれたことも
知らないままだった。
prev / next