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▼ ぼくのはなし

お風呂からあがると、身体を拭けないと
駄々をこねた僕に 左馬刻さんは
呆れながらバスタオルでそっと
拭いていってくれた。

身体の次は頭を拭いてもらう。
ふかふかのイス――確かソファっていうんだ、
に座った左馬刻さんの脚の間に座って
拭いてもらった。

そっと目を閉じて優しい手つきに
身を任せていると、「おい」と声がかかる。
「なんですか」
「いくつか聞きてぇことがある」
「聞きたいこと?」
後ろを振り返ろうとしたものの
「拭きづれぇから前向いてろ」
とがっちり頭を固定されて、
そのままコンクリートの
壁を眺めることにした。

「まずお前の家はどこだ」
「施設」
「施設…(戦争孤児か?)
どこにある」
「知らない。お外に出るのはじめてだもん」
「じゃあお前の親は」
「親は先生゛たち゛だよ」
「達?両方職員ってことか、」
「ねぇ 左馬刻さん
僕は今日からここに住むんだよね?」

聞くとシン、と部屋が静まり返って
左馬刻さんの手が止まった。
「――テメェ あの手紙の内容
知らされてんのか」
少しだけ低くなった声で聞かれて
でもなんのことかわからなくって
首を傾げる。変な左馬刻さん。
なんとなく後ろを向くと、
眉が眉間に寄せられていた。
なにか考えてるみたいだ。

「左馬刻さん?」
「―――いや なんでもねぇ。
(まさかこいつは 親から
置いてかれることを知らされてた
っつうのか。どんな事情か知らねぇが
腑に落ちねぇし気にいらねぇ)
…髪は終わりだ。次はドライヤーで、」
「僕 それもやったことないよ」
「はぁあ…そーかよ」

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