▼ いっしょにおふろ
ひと通り拭いてもらったところで、
左馬刻さんは側に置かれていたソファに
どかっと腰を下ろした。
そして僕をみながらいう。
「とりあえず身体温めねぇと
風邪ひくだろ。廊下出て右が風呂に
なってっから入ってこい」
「おふろ、」
「なんだ」
「一人で入ったこと無い」
昔からずっと何をするにも
先生達と一緒だった。
お風呂に入るのも 洗ってもらうのも、
拭いてもらうのだって。
゛お前は何もしなくていいんだ゛
それが先生達の口癖だった。
なんでかなんて 僕にはわからないけど。
昔のことをぼんやり思い出していると
左馬刻さんの雰囲気ががらっと変わった事に気付く。
少しだけ暗くなったような気がした。
首を傾げて顔を見つめていると、
不機嫌そうな顔で口を開く。
「テメェ さっきから俺様のことを
おちょくってんのか?」
「おちょくる?おちょくるって…?」
知らない単語に再び首を傾げると
はぁ、と溜息がこぼされる。
「…まぁいい。話は風呂の後だ」
「でも、僕
入り方わからない」
「一緒に入ってやる。
だからわかんねぇなら覚えろ」
いいな、と念を押されて とりあえず頷いた。
すると左馬刻さんは立ち上がって、歩き出す。
僕はその背中に続いた。
――――――――――――
――――――
お風呂場らしきところにつくと、
左馬刻さんはおもむろに服を脱ぎ始めた。
それを見て、僕は両手を上げる。
「…何やってんだ」
「?服、とってほしくて」
「んなもん自分で脱ぎゃいいだろうが」
「先生から 僕は何もしなくていい、
するんじゃないって 言われてるから」
「はぁ…?テメェの先生ってやつは
一体どうなってやがんだ」
やれやれと言わんばかりに顔を歪められたあと
左馬刻さんは僕の服に手をかけて、
そのまま上へと引っ張り上げる。
「ん」
すぽっと服が脱げて、下は?と
聞くと「流石に自分でやれや」って
言われちゃった。
仕方なく自分でやってみることにする。
この日僕は初めて先生の言いつけを破りました。
――思えば
こんな些細なことすら知らない僕を
左馬刻さんはどうして
迎え入れてくれたんだろう?
同情 だったのかな
きっと違う、そんな気はするけれど
幼すぎる僕にはわからなかった。
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