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▼ 手紙の内容と不思議な奴

左馬刻side

雨の中座り込んでるガキがいやがった。
傘もささねーで蹲って微動だにしない。
死んでんのか、なんて最悪な事が
頭をよぎりもしたが何度か声をかけてみると
そいつはゆっくりと顔を上げた。
まだ幼い 無垢な顔だった。

話してみたら家には帰れねぇだ
初めて会うやつに渡すよう言われただ
わけのわからねぇことを言いやがる。
仕方なく手渡された手紙の内容に
言葉に詰まったが―――
こんなとこでいつまでも雨にふられる
訳にもいかねぇ。
とりあえず恭を連れて部屋へと向かう。

手紙の内容を こいつは知ってやがんのか。
素朴な疑問が生まれたが直に聞くのも躊躇われた。

『拝啓 この手紙を読んでいる貴方へ。
1年間 この子をよろしくお願いします』―――

書かれていたのはたったそれだけだ。
送り主の名前も何もねぇ。
書いたのが母親か父親かなんだか
知らねぇが こいつは…何らかの理由で
あの場に捨てられた。
挙句見ず知らずの相手に『1年』面倒を見ろという。
全くわけがわからねぇ。

恭はと言えば何を言うこともなく、
大人しく俺様の後ろをついてきやがる。が
やたらキョロキョロしてやがんのは
なんなんだ?マンションなんざどこにでも
あるだろうに。何がそんなに珍しいっていうんだ。

「何がンなに珍しいんだ」
「だって 初めて見たから」
「初めてだぁ…?」
思わず足を止めて振り返り聞き返すと、
恭も足を止めて、不思議そうに
俺様を見上げている。
まっすぐな目が瞬きをした。

「初めては初めてだよ?
だって 僕は今日初めてお外に出たんだ」
「テメェ ふざけてんのか」
呆れ気味に返すと、こてんと首を傾げている。
…反応を見るに 嘘、って訳じゃ無さそうだな。
ますます意味がわからねぇ。
落ち着いたらいくつか聞いてみるしかねぇな。
そう思って再び足を動かした。

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