▼ おもいかえせば
―――僕と左馬刻さんとの始まりは
そんな感じだった。
あの後 ずぶ濡れになった僕を、
部屋まで連れていってくれて
ふかふかのバスタオルで
身体を拭いてもらったのを覚えている。
僕が『自分で身体を拭いた事が無い』って言ったから。
左馬刻さんはしょうがなく拭いてくれたよね。
口ではつんつんしてたけど
手つきはとても優しかったのを覚えてるよ。
だから僕は、左馬刻さんに拭いてもらうのが
だいすきになったんだ。
毎日お風呂上りにバスタオルを持って
拭いてとせがみにいくから
沢山迷惑をかけてしまったかもしれない。
それでも 文句を言いながら、拭いてくれる
優しいあなたが大好き。
『いつになったら自分で拭くんだテメェはよ』
『左馬刻さんがおじいちゃんになって
僕が左馬刻さんの身体を拭く様になったら』
『は、まだまだ先じゃねーか
つうか年取っても自分の身体くらい拭けるっつうの』
くだらない事を言い合いながら
わしゃわしゃ!って強く頭を拭かれて。
ただそれだけで幸せで自然と笑顔になれたんだ。
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