▼ はじめまして
先生に抱きしめられたあと、すぐに
別の先生がやってきた。
やってきたのは女の先生で
長い白衣を着こなして 赤いヒールを
鳴らしながら僕の手を取り、歩き出していく。
慌てて後ろを振り返ると、
悲しそうな先生と目があった。
(どうしてそんな顔をするの?)
聞くまもなく、僕は先生から
引き離されて 外へと連れ出される。
生まれて初めてのお外は、
とても不思議な感覚だった。
初めて触れる外の空気、初めて見る太陽
初めて見上げた空の色。なにもかもが新鮮で
辺りをキョロキョロと見回す。
「先生 図鑑や写真で見るよりも
空は青いんだね」
「ええ」
「ねぇ先生 僕は今からどこへ行くの?」
「そのうちわかるわ」
それから後会話は無く、ただひたすら
手を引かれて歩いて行く。
辿り着いたのは施設の門前。
門の前には 大きくて黒い車と
怖そうなおじさんが立っていた。
「恭 あちらが今日から
貴方を面倒みてくださる方よ
挨拶なさい」
言いながら背を押されて、躓きそうに
なりながら前へ一歩進む。
とりあえず ご挨拶をしなくちゃ。
「初めまして 恭です」
言いながらお辞儀をすると、おじさんは
満足そうに頷いて 「1年でいいんだな?」と言う。
「ええ、結構です」
「見返りは」
「…多少の不祥事でしたら
゛上゛は目をつぶるそうです」
「多少?割に合わないな」
「…子供の前ですから、
詳しい話はまた後日お願いします」
「要相談 ということかな。
良い返答を期待してるぞ」
なんだか暗い雰囲気が漂う中
僕にはこれっぽっちも分からないお話だな
と思って、ただ空を見上げた。
そよそよ吹く風が心地よくて、
改めて外に出たんだと感じる。
暫く空を眺めていると、僕を呼ぶ声がした。
「恭 車に乗りなさい」
そういったのは怖そうなおじさんだ。
ほんとについていっていいのかな?
分からなくて先生に視線をやると、
頷かれたので 車に乗ってみることにした。
中は広くてふかふかとしていた。
僕が乗った横に、おじさんが座る。
すぐにドアは閉じられて、さよならを
言う間もなく車は進み始めた。
慌てて先生を見ようとしたけれど、
ガラスが暗くてよく見えなかった。
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