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▼ 1.クラスメイトの山田

昼休み中。
俺はいつものダチ2人とだべりながら
飯を食っていた。

「なぁそういえばこの間みたAV、
ウチのクラスの奴に
似てる女優がいたんだよ」
そう話すダチにふーんと返しつつ
俺はパンの咀嚼を続ける。AVも悪くはねーけど
あんま興味ねぇんだよな。

「つか誰に似てたんだ?」
他のダチが聞く。確かに そこだけは気になっかも
そう思って耳を澄ませていると
聞こえてきた名前に盛大にむせ返るはめに
なるのだった。

「げっほごっほげほ!!」
「おい恭大丈夫かよ!」
「げほっげほ…大丈夫…大丈夫、
なんだけどよぉ 今なんつった?」
「え?だから、似てるんだよ
山田に」

山田。

ダチから出た名前は 覚えている限り
ウチのクラスに1人しかいない。1人だ。

「…なぁ お前本気で言ってんのか?」
念のために聞く。
「マジマジ。しかも結構エロかったんだよなぁ」
思い返しているのかデレるダチの顔に
げんなりしながら ゛山田゛について思い返す。

山田。
ウチのクラスメイトの山田は紛れもなく 男のはずだ。
それが女優に似てるって言われてもなぁ。
特に山田と仲がいい訳でもねぇけど
流石に不憫に感じ初めて口を出す。

「あのなぁ男が女に似てるワケねぇだろ
ただタレ目だったとかそんなんじゃねぇのかよ」
「いやそれが!口元に黒子もあったんだって!
お前も見るか?」
何故か見せる気満々のそいつに
俺は気分がゲッソリして、いいと手を振り
食べかけのパンを全て口に含む。

もう1人の奴はみてぇと言ってたが
わっかんねぇ。なんで野郎に似てる女を
見たがるんだ?や、その女優さんが美人だった
としても同級生と似てるかどうかなんざ
俺は知りたくない。気まずい。

「俺はパスだからお前ら二人でみとけよ、
じゃあな」
「あっおい恭!」
静止する声も聞かずに立ち上がって
教室から出ようとした矢先、
急にドアが開いて 人とぶつかりかけた

「うおっ 悪ィ」
慌てて謝り、相手をみると 内心げ、という
声をあげる。

「いや 俺の方こそわりぃ」

そう言って俺の横を横切るソイツ、
まさしく話題にあがった山田。山田二郎。

そのまま中に入っていくアイツの行く先には
山田に気付かず、スマホに見入ってる俺のダチ2人。
もしかして、もしかしなくても
さっきのAVみてんじゃねーだろうな?と
モヤついた感情が生まれる。

…万が一見ていたところで
画面をのぞき込みでもしねぇ限り見えることは
ねーだろうけど。…なんっか嫌だな。
ダチもダチでアホだから山田に気づいちゃいねぇし
バカみてーに画面に食い入ってるし。

そうこうしてるうちに山田は
真後ろ通りそうだし。

…ああ ああああ!!
もう!なんで俺がこんなことでモヤつかなきゃ
なんねーんだよ!!

どうにでもなれ、いやなられたら困る
そんな自問自答を繰り返しながら
ドアの外へ向いていたつま先を
教室の中へ戻して 一歩一歩
大股気味に歩いていく。

先を歩いていた華奢な背中に近づいて
声をかけた

「山田、ちょっと話があんだけどいいか」



――まともに話したこともろくに無い
お互いの名前をなんとなく認知していた
ただその程度のクラスメイト。
それが山田だったのに。
まさかじわじわ 関わっていくことになるとは
今この時の俺は微塵も思っていなかった。

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