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▼ ぼくとりおーさん

理鶯side

がさがさ がさがさと
草むらが揺れる音がする。
…でかいな
草の揺れ具合、音から察するに
イノシシあたりだろうかと予測する
今晩の゛獲物゛はこれで決まりだな、
そう意気込みながら 茂みに身を隠し
獲物が姿を表すのを待つ。

がさがさ がさがさ

「……………」
研ぎ澄まされる集中力 聴力 視覚
全身で獲物を捉えることに集中する

刹那 バサッと勢い良く飛び出した
黒い塊に 今だ、と飛びかかろうとした――――


「ひっ!」
大きく上げられた゛声゛に
獲物を仕留めようと振り下ろした手が止まる。
これはイノシシではない。
飛び出してきたのは、あろうことか
黒く薄汚れた少年――――――


「こんなところで何をしている」
そう声をかけると、ビクッと怯えたように
身を縮こまらせる少年。
ふむ。どうしたことか。

膝をつき、しゃがみこんで 少年の目線へと
できるだけ顔を近付ける。
怯えられていては話ができない
まずは心を許してもらうところからだろう
そう思ったのだ。

「喋れるか、少年」
問うとコクリと頷いてみせる。
「なぜここに居る」
此処は子供一人で来れるような場所ではない
「家族とはぐれたか?
ここは危険だ。安全な所まで
小官が案内してやろう」
「ぁ、」
「ん?どうした」
「ぼく、に、かぞくは
いない、」
――――、驚きで目を見開く
少年は俺の方を見ずに、視線を彷徨わせ
しどろもどろになりながら 口を動かす。
「すて、られた
やまのなか、ここ に…
いい子にしてたら むかえにくるって、
ゆってたけど…こなかった」

「ふむ…」
この子が言っていることは
恐らく事実なのだろう
薄汚れた姿が何よりの証拠だ
迎えに来ない親を探して
この周辺を歩き回ったのだろう。

「…少年
腹は空いているか」
彼はこくり、とただ頷く。
「では小官について来るといい
森は危険だ。キャンプ地で馳走しよう」

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