▼ アイツとオレ
「お〜い!!二郎〜!隣のクラスの
佐々が呼んでんぜ〜!!」
そうダチから言われて教室のドアを見ると
顔を強張らせてこちらをみている、その
佐々…とかいう奴がいた。
全然知らねぇ奴。誰だよマジで。
そう思ってたら、隣にいたダチから
小声で耳打ちされる。
「あいつ、めちゃくちゃ喧嘩強いって
噂のやつだよ。お前ブクロ代表だから
目ぇつけられたんじゃねーの?
気をつけろよな」
…タイマンでもふっかけられる
ってことかよ。だりぃ。
待たせるわけにも行かずに
たらたらとソイツのとこへと歩いて行く。
身長は俺と一緒くれーだけど
細っこい。んとにつえーのかこいつ。
「で、何」
そう言うと佐々は
こわばった顔のまま俺に紙を突きつけてきた。
ああ?んだよ喋れつっーの
とりあえず紙を受け取って
綺麗に折り畳まれたそれを開くと、
『放課後 校舎裏で待つ』
と書かれていた。
なんとまぁ…
呆気にとられているといつの間にか
佐々は居なくなっていて
余計に何が何だか。
「(俺はバカだけど…
つーかバカな俺にだって
わかるような こんな古めかしい
たいまんの誘い方あっかよ)」
クシャリと紙を丸めるとそのまま
遠くにあるゴミ箱に放りなげる。
紙は綺麗にカーブして そのまま
ゴミ箱の奥底へと消えてった。
「二郎ナイスシュ〜!」
「はははサンキュ」
「でもすぐ捨ててよかったのか?」
「構わねぇよ
ヤローからの゛お誘い゛の手紙なんざ
嬉しくねーしな」
「ウワッ 今日は学校ディビジョンの
テリトリーバトルか」
「なんだそれ くだんねーこと
言ってんなよ」
けらけら笑ってみるものの
放課後の呼び出しを思うと
面倒くさくて億劫だった。
放課後になってしまえば
嫌でも行くかどーか決めるしかない。
「じゃあな二郎〜!
タイマン頑張れよ!」
「おー」
全然やる気ねぇけどな。
ここで逃げんのは癪に触るし
行くしか、ねぇか。
校舎裏に向かう足取りは重い。
せめてこれが美人とかだったら
ちょっとは気持ちも違ったのかもな
なんてくだらねー現実逃避しながら
1歩1歩 距離を縮めていく。
校舎裏に入ってすぐ、
俺を呼び出したなんつったか…
佐々?はいた。
スッゲー視線感じんだけど、
何なんだこいつ。
「来たぞ」
そう声をかけてやると、
そいつはこっちにゆっくりと
近付いてくる。
「分かりきってる事だけど
一応聞いてやる 要件は何だ」
まっすぐ目を見て問い詰める。
何も言う様子がない佐々に、
続けて口を開いた。
「ブクロ代表の俺とラップバトルなんざ
テメェの度胸は認めてやるけどよ
簡単に勝てると―――――」
「違う」
そこで初めて口を開いた佐々
…意外に高い声してんのな こいつ
ってそうじゃねぇ
「何が違うんだよ」
「ラップバトル、したい訳じゃない」
「はぁ?だって果し状」
は、もう捨てちまったけど
どう考えてもあれは 喧嘩の申込みだろーが
「山田、二郎
お前にお願いがあって
手紙 書いたんだ」
「お願い?お願いって何」
「………俺と、
付き合ってほしい」
時が止まったような気がした。
「帰る」
そう言って踵を返そうとすると
思ってもねー強い力で引き止められる
コイツ ほそっこいくせに馬鹿力かよ…!
「待って…!まだ、話は終わってない」
「俺は話すことねぇよ」
「っ!それでも!俺は
話したいことがある このままでいいから
聞いて欲しい」
縋るようなその声は 冗談で言ってる様には
思えなくて。振り払うことは出来なかった。
足を止めて、ちらりと振り返ると
佐々はおずおずと口を開く。
「顔も知らない相手から
ましてや男の俺から、付き合ってなんて
無理な話だと思う」
そりゃ、な。
まず人生初めての告白が
まさかヤローからだなんて
いつどこで思ったよ。
「だから せめて」
そうポツリと呟いて
俯く佐々。
かと思えばガバッと顔をあげ
思わず少し仰け反ってしまう。
「せめて、友達に なってほしいんだっ」
そう声をはった佐々の頬は
赤く染まって 俺の腕を掴む手は震えている。
「…ダチになったところで
お前の気持ちには」
「う、ん わかってる
わかってるけど いいんだ」
きゅ と下げられた眉は
゛いい゛とは裏腹な気持ちを表しているのに。
コイツは笑っている。
泣きそうな顔をしてるくせに。
笑っていた。
…健気かよ。
いつもならこんなの 無理だつって
振り切んのによ。
何故だか 突き放せずに
「分かった」とだけ返す。
「ありがとう」と聞こえた声は
少し涙声だったけど それから何を話すでもなく
お互いに立ち去った。
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