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▼ 33.正解の無い世界

ゆっくり唇を離すと意外にも拳が飛んでくることはなかった。
「…どういうつもりだ」
静かな声で、冷静な瞳が俺を見てた。
「いや、なんかしたくなって」
「したくなったら誰彼構わずやんのかよ、お前」
はぁ、と露骨な溜息と首を振る仕草に
なんとも言えない気持ちになりながら
両腕を頭の後ろで組んで伸びる。
「んなわけねーっしょ。
俺こう見えて好きな子としかしねーし、」
とそこまで喋って思考が停止した。
俺今なんつった?

「「………あ?」」

うわやっべ、待って やべえ、
くっだらねーとこ山田とハモってっし
つうか!!いや、いや、
「ぁ いや ダチとして好きっつーか、」
「いや ダチとはちゅーしねぇだろ」
「それはそう!!あー、だから、な?」
「何がな、なんだよ…恭 ほんとにどうしたんだ」
不意に呼ばれた名前に 大きく心臓が鳴る。
初めて山田が俺の事を名前で呼んだ。
たったそれだけのことがバカみてーに
嬉しくて 口角がつり上がっていく。
「ぁ……やべぇ、今すげ嬉しい、」
にやけそうになる口元を 両手で隠してみるけど
山田にはバッチリ見られてたみてーで
視線を四方に飛ばしているのが見えた。
気不味い空気が流れ始めて冷や汗が背中を伝う。
(最後の最後にこの空気は耐えらんねえなぁ…)
何か喋んねーと。でも 何を?
分かんなくなっていって口を開こうにも
上手い言葉が何1つ出てこない。
ただ頭の中にあるのは 俺が山田を好きかも
しんねーって疑惑だけで。

(あー……もう、俺バカだし
こんなんウダウダ考えたって
答え出せるきしねーし、)
思わずガシガシと頭をかいて
夕陽に染まるあいつの顔に視線をやった。
オレンジに照らされても綺麗なオッドアイと
目があって心臓が大きく鳴る。

…こんなの言ったら もうほんとに
関係終わるかもしんねえのに
どのみち顔合わせんのも今日が最後
かと思うと自分の中で何かが
吹っ切れていくような気がした。

「―――引かれても仕方ねぇし、
俺自身もよく分かってねーからさ
聞き流してくれていい、つうか
聞き流してほしい事があって」

とくん、どくん、緊張で心臓の音が
大きくなってダセえけどちょっと手が震えた

「俺 お前の事好きかもしれねぇってのは
ほんとのことなんだ…よな…。」
「ッ!!ダチとして、って言ってたよな」
「おう。ダチとしても勿論で そんで
あ―…俺、劇の時山田とちゅーしてから
ずっとお前の事が気になっちまって。
おかしいよな、男同士だしダチだし?
そもそも俺は女の子大好きなのにさ、」
話してるうちに自分でも『なんで?』の疑問が
果てしなく湧いてきて 視線を地面へと
逃した。山田の顔を見るのが怖かった。

「…なんつうか、すげーあやふやなのな」
困惑した声に心を刺された気持ちになる。
図星過ぎて申し訳ない。
「…ごめん」
「別に怒っても不快に思ってもねえよ。
だから謝らなくていい。けど
なんて答えていいかもわかんねえ、」
「はは、優しいな。それに そうだよな
うんうん」
俺だって自分の気持ちが纏まってねえのに
山田なんてもっとわかんねーよな。
好きかもなんて マジであやふやもイイとこで
マジで言うんじゃなかった、て後悔が
心の底から吹き出しそうになる。

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