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▼ 32.あっという間に

お別れの日はあっという間にやってきた。
いやーマジで一瞬。ダチと山田と 今まで通りの
なんでもねぇ日常を送って あぁ、だけど
最後の1日(今日)は全員で見送りだつって
パーティーを開いてくれて
すんげー楽しくて、それも一瞬で終わっちまって
いつもバカやってゲラゲラ笑ってる奴らさえ
泣きそうになりながらまたな なんて
言ってくるから こっちまで涙腺が緩みそうだった。

「おい」
「…何」
不意にかけられた声に振り返ると、
真顔の山田が突っ立っている。
黒い髪が夕陽でオレンジに染まって眩しかった。
「何感傷に浸ってんだよ」
「浸ってない。つかじろちゃん
感傷なんて言葉知ってたのかよ」
「っせぇな 俺のことバカにしすぎだろお前。
大体夕陽に見入って立ち止まるとからしくねぇ事
してんのが浸ってなきゃ何なんだよ」
図星を突かれて思わずそっぽを向く。
いや 向いたら認めたようなもんじゃねえか!
と思って慌てて前の山田に視線を戻したものの
山田は何も言わなくて、つられるように俺も黙って
気まずい空気が流れだす。
(今日が 最後なのにな)

どうしたもんかと悩んでいると、山田が歩き出して
俺の横を通り過ぎて行った。追うように振り返ると、
あいつは俺に背を向けてそのままずっと歩いて行く。
「お前さぁ。他の奴らも言ってた事だけど
こーゆー事はもっと早く言えよな」
「ごめん」
「別に謝ってほしい訳じゃねえ。ただ、」
「ただ…?」
先を促せば山田の足が止まって
ゆっくりとこちらを振り返る。
「―――誰だって ダチの事
ちゃんと見送ってやりてーだろ。
…俺だって お前のことは…」
ごにょごにょ、と声が小さくなっていって
うまく聞き取れない。
なんて?山田は今なんて言ったんだ?

ずかずか歩みを進めて山田との距離を縮める。
そして顔を近づけて口を開いた。
「今なんて言ってた?」
「うおっ…ちけぇよばか、」
「だって聞こえなかったんだよ。で、なんて?」
「…、その前に離れろって」
「いいから言えよ。気になるだろ?」
引かない俺に 山田は口篭って
視線を逸らしてしまう。

(あー…ほんと睫毛長、
てかまじまじ見てると
山田の垂れ目 色っぽい気がしてくるんだよな
山田ってやっぱスゲー顔綺麗だし)
視線が無意識に唇へと映る。
薄いけど柔らかい 何度かキスをした唇。
「「…………」」

お互いに無言で見つめ合って
その間も夕陽は俺達を照らしながら
沈んでいこうとする。
もう時間が無いんだって知らせる様な
夕陽のタイムリミットは 俺を
思いもよらない行動に移させた。

「………二郎、」
初めてちゃんと名前を呼んで
少し驚いたあいつを無視して
目を閉じて、キスをした。
最悪殴られるだろうな。
ほんで、下手シイ友好関係は終わりだろう。
学校最後の日に、山田との友情まで
終わらせちまうなんて
本当にバカだな、俺。

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