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▼ 31.未来へ向かって

横になって目を瞑る。
後頭部の下に感じる少しだけ硬いのは
山田の太腿だ。俺が動けないのを見兼ねて
+クッションが無かった為に
脚を貸してくれたからだ。
酔っ払って告白した挙句ちゅーまで
しちまったのに優しくしてくれるとか
ほんと、聖母かよ。

「ごめんな 山田」
思わず再び謝る。するとすぐに返事が来る。
「しつけーって。気にしてない」
ホントに気にして無さそうな声に安堵しつつ
本音が零れ落ちた。
「ほんと、やっさしいなぁ、お前。
マジで聖母なのか」
「は?」
「いや なんでもねえわ」
少しだけ笑って返すと 部屋に沈黙が
訪れて、聞こえてくるのはモニターに流れる
宣伝広告の音だけだった。

(めちゃくちゃまったりしてんなー…
んー。この流れなら、話切り出せるかも。
ほら 酔った勢いもあるし。うん)

「───山田、俺 実は転校するんだ」
ずっと言えなかったはずの言葉は
思いの外サラリと出た。よかった。
山田からは露骨に驚いてる様な
雰囲気を感じ取っていた。
「………転校って いつ」
「1週間後」
やっと話せたスッキリしたような気持ちと
もう山田と一緒に過ごせたりとかしねぇんだ
って実感が急に湧き始めて
寂しいななんて思ってしまう。
(山田がどう思ってるかは 分かんないけど)

薄っすらと目を開けて 山田の顔を
盗み見て、うっかり声が出そうに
なっちまった。山田は俺を見下ろしながら
何とも言えない顔をしてたんだ。
切なそうなような、何とも言えない
そんな顔。

「一週間後って急すぎるだろ」
「俺もそう思ったよ。けどもう決まったんだ
って母さんに押し切られてさ。
それに、」
「なんだよ」
「…山田にはなんつーか 言いづらくて
中々言い出せんかったんだ。
山田に限らず他のダチにも、だけどさ」

いつもふざけて絡む奴らだって
いざ離れるとなると寂しいもんで
別れなんて中々切り出そうとは思えなかった
だって俺自体は全然引っ越しも転校も
したくねーしな。

(それに 山田ともやっと
仲良くなれたって思ってたのにな)

「そうか。なんつーか、いつもうるせぇ
お前が居なくなるなんて想像できねぇな」
そう言いながら笑う山田に
素直に嬉しい感情が沸く。
想像できねえって思われるくらい
俺は山田と仲良くなれたんだ。

「山田も転校して来いよ、俺がいくとこに」
「はぁ?行くわけねーだろ
つーかお前が残るんじゃなくて
俺が行くのかよ」
「だって寂しいだろ?」
「それは…わかる、けど なんか納得いかねえ。
俺といてーならお前が残れよ」
「え?何それ告白?」
「ちっげーわばーか」

けらけら笑いながらでこぴんをされる。
痛い。でもそれがとてつもなく幸せに感じた。
だってもう山田とは会えない。
こんな何気ないやり取りも
気軽にできる距離じゃ なくなっちまう。

ずきん ズキン


胸の奥が苦しい。むず痒い。
これはダチと離れる寂しさとは
また違う所にある感情に思えてならなかった。

ズキン ズキン

(やっぱり 俺 こいつのこと――)


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