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▼ 28.やってきたタイミング

言い出せないまま、ズルズルと放課後になっていく。
夕日が差し込む教室を見ながら
帰り支度をする山田に目を向けた。
すると鞄に筆箱を仕舞い込んでいた
手が止められて、オッドアイがこちらを覗く。
「なぁ佐々」
「え?」
完全に気を抜いてた俺は
間抜けな声を出してしまったが仕方ない。
「お前なんか今日変じゃねーか?
いつもヘンだけどよ、今日は特に
おかしいっつーか」
「おいおい 人を変とかおかしいとか
好き放題言い過ぎじゃねーの
じろちゃん?流石の俺も泣いちゃうよ?」
態とらしく目頭を抑える演技をすれば
はぁ、と溜息が聞こえて 思ってもない
提案がやってくるのだった。

「泣き真似はうぜーけど
何か悩みでもあんなら…まぁ
話くらいは聞いてやる。
だから今から○ック行くぞ」
「え」
まさかの放課後デートじゃん。
吃驚して瞬きをする俺に
山田の表情が不安そうなものに変わる。
「もしかして予定あったか」
「んや。無いよ。
最近女の子と遊んでねーし、」
「佐々の予定は女の子と
遊ぶことだけなのかよ」
向けられるジトっとした視線に
慌てて首を横に振る。
「今のは言葉の綾ってやつ?
な!、それより○ック行くんだろ?
早くいこ」
机に置いていたスクールバッグを取って
山田に背を向けると
「切り替え早すぎんだろ」と
ぼやく声が聞こえて思わず笑いそうになる。

(にしても、
これはチャンスかもしれねーな。
つかチャンスでしかねぇっしょ?
だって山田と二人っきりだし)
うんうん、と一人納得している俺の横を
さっきまで後ろにいた癖っ毛が
通り過ぎていく。

少し歩いた所で華奢な背が振り向いて
綺麗なオッドアイが俺を見る。
「何やってんだよ。
早く行くんじゃねーのかよ」
そう言って笑った山田に
ちょっとだけ胸がきゅうっとなった。

(こーやって放課後に話せんのも
あとちょっとで 側にいれんのも
あとちょっとなんだ)

「………なぁ山田、」
「あ?なんだよ急にンな顔して…」
「大事な話してーからさ、
○ックやめてカラオケにしねぇ?
そっちのが個室だし、ゆっくり話せるだろ」
「言われてみれば、個室の方がいいか…
わーったよ。んじゃ駅前のとこでいいよな」
「ん。サンキュ」

ヘラっと笑って 大きく一歩踏み出すと
山田の横へ並んでいつも通りに
何気ない くだらねー話をしたんだ。
今日の抜き打ちテストが全然駄目だったとか
偶然あった元カノにディスられて凹んだとか。
俺がどんな話をしても山田は聞いてくれたし
同じ様に、山田もいろんな話をしてくれた。

こんな日常がずっと続けばいいのに
時間は止まってくれねんだよな。

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