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▼ 22.悪気は無い

連れられてやって来たのは
もはや定番になりつつ屋上だった。
俺達以外には誰も居らず ベンチが
さみしそーに並んでるだけだった。

とりあえず俺は山田の腕を振り払う。
「ぷは、なんなんだっつうの」
対面しながらはぁ、と溜息をつくと
タレ目の上にある眉が吊り上がった。
「お前が変なこと言おうとするからだろ」
「変なことぉ?ってなに」
「しらばっくれんな!俺が避けてるとかどうとか」
「ほんとのこったろ?」

何を怒ってんだっつーの。
わっかんね、と肩を竦めると
山田はバツが悪そうに視線を彷徨わせた。
「…別に、避けてなんかねぇ。
けどそう思わせちまったんならワリィ…」
「なんかそういう風に謝られると
こっちがゴメンってなんじゃん」
「「…」」

しーんと静まり返ってなんとも居心地が悪い。
うーん。どうしたもんかな。
視線を上に向けると適度に雲が浮いてる
青空が見える。神様がいるってんなら
どう話しかけるのが正解なのか教えてほしいな
なんて現実逃避をしながら流れる雲を眺めた。

「…はぁ。やめやめ。
俺らバカなんだし考えても答えなんか
わかんねーじゃん。な?」
「な?じゃねーって。急に何なんだよ、
それに一緒にすんな」
「はぁ?一緒に赤点取って補習受けた
じろちゃんと俺の仲だろ〜??」
「うるせえ!…まぁ…考えても
わかんねぇ、ってのは、わからなくもないけど」
「ほれみろ」
ハッと鼻で笑うとまたムッとした顔で
睨まれたけど、さっきまでの気まずい雰囲気は
少し和らいでいた。

(考えすぎずに 今まで通りこーやって
テキトーにくっちゃべった方が
うまいこといくっつーことか?)

そんなことを思いながら俺は
こちらを向いている山田の横を通り過ぎて
その先にあるベンチへと向かって行く。
ベンチへたどり着くと端っこに座って
隣をぱんぱんと叩いて見せた。
「とりあえず話あおーぜ」

じゃねーと何がなんだかわかんねえし。
山田が何考えてるのか俺は知りたかった。
山田は最初渋ってたけど、俺の視線に
耐えかねたのかしゃあなしという感じで
ゆっくりと歩いてきて俺の隣に腰をかけた。
お互いに向き合うことはしなかった。
目の前にあるフェンスを眺めながら
太腿に肘をついて話始める。

「なあ 俺なんかした」
「…した」
「ちゅーのことか」
「わかってんじゃねーか」
「ん。それはごめん。でも俺もなんつうか
女の子としかしたくないんだけど…
山田なら、って思って」
「お前のソレ」
「ん?」
「だから、それ」

頭にハテナが浮かんで隣を観れば
アンニュイ(にみえる)な表情を浮かべた
山田がじっと地面をみていた。

「俺だからってなんなんだよ」
―――ああ、なるほど。

「何もなにも、言葉のまま。
俺 山田だったら平気だって気付いた。
山田の唇やわらけーし」
いい匂いもするし 顔も整ってるし
全面的に嫌じゃねーんだよな。
うんうんと1人頷いていると、
いつの間にかあいつもこちらを見ていて
困惑した雰囲気を感じ取った。

「…佐々って、その…男が好き、とかなのか」
「まさか。付き合うという意味では不可に等しい。
でもま お前とならいける」
気も合うしな そう思って何の考えもなしに
言った言葉だったけど それ以降山田は
こっちを向いてくれなかった。

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